第2話 風神の渓谷
ーーー風神の渓谷。
3人はほうきに乗って、風神の渓谷に来ていた。
アリス「ここが風神の渓谷なんだけど…」
ベッキー「特に何もないね…」
草原が広がるのみで何もない。
チェシャ「渓谷はここら一帯を指すみたい。ここには何もないから近くの集落に扇について聞いてみる?」
アリス・ベッキー「賛成~~!!」
3人はその草原の傘下に見える集落へ足を運んだのだった。
風神の渓谷の集落では、主婦と思わしき女性が洗濯をしたり、子供たちが走り回ったりと穏やかで平和な様子だった。
アリスは近くにいた女性に話しかけた。
アリス「すみません。風神の渓谷の扇についてお聞きしたいのですが…詳しい方はこの集落にいらっしゃったりしませんか?」
ベッキーもアリスの背後で問いかけた女性を見やる。
女性「扇ねえ…。祭典の際に出す扇のことかしら…?私には詳しいことは分からないわあ。けれど、村長さんなら何か知っているかも。」
チェシャ「その村長さんはどちらに?」
チェシャも聞き取りに参加する。
女性「そうねえ。今の時間だったらご自宅におられるんじゃないかしら。」
女性はそう言って、集落の奥の方の家を指さす。
女性「この村の一番奥の大きな家が村長さんのご自宅よ。行ってみれば何か分かるかもね。」
アリス・ベッキー・チェシャ「ありがとうございます!」
3人は村長宅へ向かうのだった。
村長宅では、長老と思しき人物と少年の2人がいた。
長老と思しき人物は3人が来たのを見て、目くばせで少年を引かせる。
長老と思しき人物「君たちは?」
アリス「魔法都市ウェルザリアの魔法学校タッドポールから来たアリスとベッキーとチェシャです。風神の渓谷の扇について伺いたく来ました!」
長老と思しき人物「ふむ。わしはこの村の長をしているガンマという。扇か…。扇なら毎年この地域の祭りで伝統的な供え物として風神様に捧げられておるな。」
ベッキー「…その、扇って…もらうことって出来ますか…?」
長老ガンマ「そうじゃの…。扇は年に1回祭りのために作られ、祭りで風神の渓谷の奥の風神様の祠に供えられる。そして、昨年の古い扇は渓谷に投げられるのじゃ。だから、今村に扇は存在しなくての…。」
チェシャ「…と言うことは扇を手に入れるには、渓谷を降りて過去の扇を手に入れるか、渓谷の奥の風神様の祠に供えられた今年の扇の二択ってわけやね?」
長老ガンマ「不届きもの!渓谷の奥の風神様の祠に供えられた今年の扇はダメじゃ!!バチが当たる!!」
チェシャ「まあ、そうよね…。となると、取る方法は一つね。」
アリス「渓谷を降りて過去の扇を手に入れる…。」
ベッキー「あの深い渓谷下りるの?!?!怖い~~~~!!!!」
怖がるベッキーをよそにアリスとチェシャはアイコンタクトを交わし頷く。
アリス・チェシャ「渓谷を降りよう」
ベッキー「イヤ~~~~~~~~~~!!!!!」
ベッキーの絶叫が渓谷にこだました。
アリス・チェシャ・ベッキーの三人組は風神様の渓谷に来ていた。
下からの突風に圧倒される三人。
見下ろすと全く底が見えないうなりをあげる渓谷に、三人は立ちすくんでいた。
アリス「あの後長老から渓谷へ下りる簡単な地図をもらったけど、この地図全然分からないんだけど。」
アリスの手には先ほど長老からもらったとされる地図が握られていた。
しかし、その地図はかなり簡易なもので、素人目にはどういうルートが書かれているのか全く分からない。
チェシャ「あの長老…。老眼でよく見えてないなら先に言ってよね…。地図書くから待ってろ言われたのに、こんな訳分からない地図を書くなんて。」
チェシャは少し苦虫を噛んだような表情をした。
ベッキー「…どれどれ見せてみて!」
べッキーが地図をのぞき込む。
ベッキー「あ!このルートはここのことね!そして、ここからまっすぐ行ったところを右に曲がって、突き当りのところに標識があるみたいだよ!」
アリス・チェシャ「?!?!?!」
アリスとチェシャはベッキーに驚いた顔を近づける。
アリス・チェシャ「この地図分かるの?!?!」
ベッキー「え?うん。すごく丁寧な地図じゃない。」
目をぱちくりさせ、さも当然のような顔をするベッキーに感嘆する二人。
これで渓谷を降りていける…と安堵する他、ベッキーに意外な特技があったことを知る二人なのだった。
渓谷を降りるルートを見つけた3人は、早速狭い渓谷を下る崖の階段を下りていく。
道幅一人分しか歩けない狭い今にも崩れそうな道を伝って、下ってゆく。
ベッキー「とても暗いねえ」
アリス「そうだね!でも、まだ下りて数分しか経ってないのにこの暗さ…。このままきっともっと下に行ったら真っ暗だね。」
チェシャ「そしたら、灯の魔法を使おう」
下に行くにつれどんどん暗くなっていく渓谷の底へ続く道に、三人の少女たちは恐る恐る下りていく。
突然下から突風が吹き上げた。
ベッキー「あ!!!!!!」
気付けばベッキーが持っていた地図が突風によって舞い上がり、風に飛ばされてしまったのだった。
アリス「ほうきで今すぐ飛べば間に合う?!」
咄嗟にほうきを構えようとしたアリスにチェシャは手で制した。
チェシャ「やめておいた方が良いで。もし今のような突風に巻き込まれたらタダでは済まないかもしれないわ。」
チェシャは先ほどから突発的に吹き上がる突風に疑問を思っていた。
確かに渓谷なので下から風は吹きあがるものだが、風神様の渓谷の突風はかなりの風量があり、この突風に巻き込まれたら身体がいくつあっても足り無さそうだった。
不規則に訪れる突発的で暴力的な突風に耐えながらも下る三人。
地図を無くしてからはベッキーは半べそ状態だ。
ベッキー「もう結構下りてきたよ?!まだ底に着かないのかな?もうめちゃくちゃ暗いし、風は強いし、怖いよ~~~~」
アリス「ベッキー頑張れ!地図は持ってかれちゃったけど、ここまで来たら下りるしかないよ!がんばろ!」
ベッキーを励ますアリス。
チェシャは冷静にこの状態を分析しつつ、黙々と下っていくのだった。
ーーーもう何時間経っただろうか。
真っ暗な中、時間間隔もあやふやになってきた頃、ようやく底への目途が付くところまでやってきた。
チェシャは真っ暗で何も見えなくなり、かつ音もあまり聞こえてこなくなったタイミングから時折コインを下に落としていた。
コインを下に落とすことで、そのコインが底に落ちた時に金属製の音が響くからだ。
その音によって、深さを判別していた。
コインの音が明瞭になってきた頃、無心で階段を下っていた三人の目に希望の輝きがよみがえってきた。
チェシャ「もうすぐのようや。」
チェシャの一言に、二人の覚悟を決めた唾をのむ音がこだまするのだった。
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