第1話 はじまりの本

「ウィーーーン。」

自動開閉式のドアが開く。

その自動開閉式のドアの向こうには3人の足音。

そして、そのドアが開く方向には眼鏡をかけた司書らしき人物がたくさんの本を抱えて立っていた。


眼鏡をかけた司書らしき人物「おお!今日も来てくれたんだね~~」

その人物は今にも落ちそうな本が乱雑に積み重なった本のタワーを抱えて、ドアの先にいた3人に呼びかける。


チェシャ「こんにちは。今日も世話んなるわ。」

ベッキー「こっ…こんにちは…っ。」

アリス「今日は何読もーーー!!?!どうしよーーー!!!?!」

静かだった図書館が3人組の声によって一瞬にして、騒がしくなる。



ベッキー「ど、ど、どうしようっ…!は、はずかしい…っ!」

ベッキーは眼鏡をかけた司書らしき人物を見た途端、とっさに今来た道を引き返そうとする。

アリス「大丈夫だって!」

それを止めるアリス。

チェシャ「はーっ。またかいなー。」

二人のやり取りをやれやれといった様子で呆れているチェシャ。

司書「?(^-^)」

司書はにこにこしながら3人組を見ている。


この魔法使い見習い3人娘は、ほぼ毎日と言っていいほどこの魔法図書館に来ている。

3人が魔法図書館に訪れる理由は毎日異なる。また、それぞれにも毎日通う理由があるみたい。

真面目でしっかり者なチェシャは将来憧れの大魔法使いになるべく、勉強のために毎日足しげく来ているようだ。

そして、さっきから極端に恥ずかしがっているベッキーはというと、3人の前で優しく微笑んでいる眼鏡司書ダーウィンのことが好きらしい。好きな人がいるので毎日会いに来るなんて全く健気である。

最後に主人公のアリスに関しては、どうやら特段理由はないようだ。

大好きな友達2人が通う魔法図書館に毎日一緒に付いてきているみたい。


いつものように騒がしい挨拶を終えたところで、ダーウィンは手元の腕時計を見ながら

ダーウィン「お。もう行かないと。あとでね!」

と言って、器用に本タワーを持ち、バランスを取りながら去っていった。


去っていくダーウィンの後ろ姿を見送る3人。

ベッキー「はぁ…。またやっちゃったよ…。これじゃいっこうに進歩無いよ…。」

アリス「…。」

しょぼーんとしたベッキーを見やるアリスは、突然何かをひらめいたかのように

アリス「あ!」

と大声を上げ、ベッキーに提案した。

アリス「ねえ!今日は恥ずかしがりやの性格を克服できる本探してみない?!」

ベッキー「!!!」

…こうして、今日は恥ずかしがりやの性格を克服できる本を探すことになったのだった。


アリス「えーっと…この本なんてどう?!『~恥じらいを上手く活かそう~恋する女の恋愛心理』って書いてある!!」

ベッキー「うーーーん。」

アリス「じゃあ、これは?!こっちは『緊張を解く!緊張症克服テクニック~気になるあの人へもアプローチできちゃう!~』だって!!」

ベッキー「違うなあ…。」

膨大な量の本や情報の中からベッキーに合った本を探す2人。

そんな2人の横で、難しそうな本を読むチェシャ。

その3人の日常茶飯事の光景に、最初は細かく指摘していた司書さんや常連さんたちも何も言わなくなったのだった。


アリスがベッキーに合った恥ずかしがりやの性格できる本を探していると、ふと【Rain】と書かれた本を見つける。その本は、なぜか惹かれてしまう不思議な魅力を放つ本だった。

アリス「これは…???」

アリスは気付けばその本を取っていた。


その本を開いてみると、

擦れた字で「Rainの作り方」と書いてある。

アリス「Rainの作り方…?」

疑問に思いながら読んでみると、Rainについてが書かれている。


~Rainとは~

混沌とした雲に覆われた魔法都市ウェルザリアに恵みをもたらす天災。

基本ウェルザリアは魔法の力によって水は生み出されているが、その昔魔法がまだ存在しえない時代にはこの「Rain」がこの世界に水をもたらしていた。

「Rain」を作ることで魔法に頼らない水の生成を可能にし、ウェルザリアはより発展するだろう。


そのRainを作るための材料も記されている。


~材料~

・風神の疾風

風神の渓谷の扇を手に入れろ


以降もあるような空欄が後に続くが、以降の文字はそこに記されていない。

紙を透かしてみるなど試みてみたが、特に以降の文字は現れなかった。

チェシャ「それ、何かの条件を満たせば以降の文字が現れるかもしれないやね」

アリス「!!!!」

突然背後からチェシャの声がし、驚くアリス。

アリス「びっくりしたあ!驚かさないでよチェシャ~!」

チェシャ「ごめんごめん。この本は…?」

アリス「今偶然見つけたのだけど…。このRainってもの作ればウェルザリアがより発展…良いことが起きるんだって!」

チェシャ「ここに書いてある材料の『風神の疾風』聞いたことあるかも。ウェルザリアから西に少し行ったところにある風神の渓谷では風神様がまつられているみたいで、その地域に住む原住民が毎年扇をお供えしているって話を伝統民芸本で読んだことあるわ。」

ベッキー「2人とも~~!!さっきから何話してるの~~!!」

アリスとチェシャが話していて気になったのか、ベッキーが飛び込んでくる。

アリス「こんな本を見つけたんだ。」

そう言ってアリスはベッキーにも【Rain】と書かれた本を渡す。

3人はこの本とお互いを見やりながら、冒険の予感に心を躍らせていた。

そして、アリスはにっこり一声を放つのだった。

アリス「この材料を探しに行こう!」

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