第28話 戦い
ライは急いで壁に隠れてよける。
そして無反動砲を取り寄せた。
「これを使えば、流石のサマでも倒せるはず!」
しかし、
「あれえ?どこに逃げるつもりかなあ!」
「くっ!」
さすがに戦闘の真っ最中に無反動砲を装填している時間はない。
ライは絶え間なく飛んでくる銃弾をよけるしかなくなる。
ライは近くのスーパーの中に入った。
スーパーの様々な物品を使って射線を切る作戦だ。
「待てえ!」
サマも必死で追いかけるが、流石にマシンガンは重く、走る速度は遅くなる。
その分逃げるのは早い。
とりあえず見つけたキャベツを投げつけてみる。
「やったな!」
バラララララララ!
サマがMG3をぶっ放し始める。
それをライは売り場の棚を一つ通過するごとに右、左の通路に移動することでよけた。
ライが右に移動すると、サマも重いMG3を持った状態で移動しなければならない。
そして移動が完了して打ち始めた時にはもう一つ棚を通過しているので、再び違う方向に避ける。
これを繰り返すことで銃弾に当たることを防ぐのだ。
サマは今マリファナによって脳の動きが低下しているので、引き金を止めるのが若干遅くなっている。
そのため無駄弾を大量にばらまきながら追ってくる。
電動のこぎりのように絶え間ない音が響く中、ライはサマと銃弾から逃げ続ける。
その様はまるでホラー映画でチェーンソーの音を響かせながら走ってくる殺人鬼から逃げているようだった。
やがて。
「弾が思ったところに当たらない!」
銃弾がほぼ当たらなくなった。
「…そう、これを待っていた!」
マシンガンは驚異的な連射速度を持っているが、あまりに連射をしすぎると銃身が熱を帯びるため命中精度や発射速度が極端に低下し、使い物にならなくなる。
特にMG3のような異次元の発射速度を持つ銃だと銃身の過熱は大幅に早く進む。
そのため銃身をたびたび交換しなければならないが、マリファナの影響で脳の機能が低下したサマはそんなことを考える暇もなく銃弾を撃ちまくったことから、通常よりも早く銃身の寿命を超えてしまったのだ。
「畜生!やったな!」
MG3ではまだましとはいえ、銃身の交換は銃弾のリロードよりはるかに時間がかかる。
そのためサマは使い物にならなくなったMG3を捨て、肩にかけてある銃剣付きM4を構えた。
二人が一直線上に並んだ。
「これでMG3の脅威は去った。
あとはサマだけ!」
「へえ…。」
とは言ったものの、ライが依然不利な状況であることは変わらなかった。
彼女に銃弾が効く保証はないし、サマを殺しきれる確率が高い無反動砲を装填して構えている時間はない。
そのためこのまま銃術の勝負に持ち込むことになるが、面で当ててもすぐ回復されてしまうサマは非常に強敵だ。
「行くぞ!」
ライとサマはお互い至近距離に近づいた。
パパパパパン!
サマが撃った銃弾をライが右の通路に入り込んでよける。
サマも右の通路に侵入し、ライを狙う。
そのすきにライは銃弾を何発かはなった。
パパパパン!
だが、サマは平然と立っている。
「おりゃあああああああああああ!」
そしてサマはライに銃剣突撃を慣行した。
銃剣突撃をしつつ撃ってくる銃弾をよけながらライも近づく。
そして銃剣付きM4をよけようとした。
しかし、
ドンッ
「うわあっ!」
避けたところでサマの体当たりを食らい、銃を取り落として転倒する。
サマはその瞬間を見逃さず銃剣で突こうとするが、
「ふんっ!」
ライはそれを転がって避けて体勢を立て直した。
そしてサマの手をつかんだ。
そしてサマの首を取り寄せたナイフで突き刺す。
「いったあああ!」
サマはナイフを首から引き抜いた。
「もう切れた!
こっからは少し本気で行かせてもらうよ!」
サマは抜いたナイフを構える。
ライも同じようにM4に装着してある銃剣を抜いてを構えた。
そして一気に白兵戦となる。
ここからは能力も銃も関係ない、正真正銘本当の近接格闘だ。
ヒュッ!
サマから突き出されたナイフを
ガシッ!
ライが腕をつかんで
ヒュンッ!
はらいつつ、
ヒュッ!
次の一突きにつなげる。
バシュッ!
刺さったのはアーマーに覆われていない露出したサマの腹部だ。
だが、そもそも腹部への刺傷があまり効果のないサマにはむしろ反撃の機会を与えただけだった。
「かかった!」
ガシッ!
「なっ!」
サマがライの腕をつかむ。
そしてナイフを振るった。
ヒュン!
だがライがブリッジよろしく腰を後ろに曲げてよける。
そしてナイフを持った手をつかんだ。
サマがライの手を振りほどき、左手でフックをくらわすが、
「くっ!」
ライが左腕で受ける。
そして空手めいた突きと払いの応酬が繰り広げられた。
もう二人はナイフの存在すら忘れている。
だが、この空手が続く限り、ライが勝利することはない。
なぜなら、もしこの空手に勝ったとて、サマを殺しきることはできないからだ。
長期戦になればなるほど、ライに不利となる。
「おらっ!」
サマがライの腕をつかんだ。
グイッ。
そして自分のもとへ引き寄せる。
「っ!」
このままライはサマに刺されて…
と、思われたが…。
「うっ…、何だこれはっ。
視界が、ぼやけて…。」
サマの動きが鈍り始めた。
ライの腕をつかんでいたサマの力が抜ける。
「冬狼…?!」
サマはどうやら目の前に存在しないはずの冬狼の幻覚を見ているようだ。
「どういうこと…?」
「大丈夫、ライ?」
そこに立っていたのは
「ハ、ハルシっ!」
あの日国家都市から月狼が救出したハルシだった。
「ハルシ…これ…」
「私の能力で彼女に幻視を見せた。
彼女の、最も大切な人の幻視をね。」
「うん。」
そして、サマが目に見えてふらつき始めた。
「何だ?なんかすごくふわふわしていて…、気持ちいい。」
だが、その顔には笑みをたたえている。
「冬狼…。ここは…どこ…?」
サマはそう言ってへたり込んでしまった。
「今だ!」
サマが迷っている間に、ライはカールグスタフ無反動砲の弾を装填した。
「ハルシ、離れて!」
「うん!」
「食らえ!」
ライはカールグスタフ無反動砲の引き金を引いた。
ドォォォォォォォン!
爆音が響き、砲弾がサマのほうへ向かった。
ドゴォォォォォォォォン!
砲弾がサマに直撃し、爆発した。
「やった…。」
ついに自己治癒力を持つ強敵、サマを倒すことに成功した。
ライはサマに戦時中何があったか、資料などで知っている。
テルに捕らえられ、すさまじい拷問をさせられたことを…。
そして戦争が終わった後、薬物に逃げざるをえなくなり、犯罪を犯すような立場に追い込まれたことを。
ライも、もし共和国が敗北していたら、もしくはマリファナに手を出していたら、または、出会ったのが月狼ではなく冬狼であったら、サマと同じ運命をたどっていたのかもしれない。
そう考えると彼女に敬礼をせずにはいられなかった。
「せめて安らかに眠って…。」
そこにはないサマの亡骸に、ライは静かに敬礼をした。
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