第26話 交換条件

 ここはショッピングモールの屋上。


 冬狼がスマホで動画を撮影しながら言う。


「ハローワールド!


 どうも世界中の皆様はじめましての人は初めまして、


 元連邦国軍少年兵、冬狼だ。


 世間では狂犬だの通り魔だのと不名誉なあだ名で呼ばれているが気にしないでほしい。


 さて、今回はこの男の処遇を生配信するぜ!」


 冬狼はそう言ってスマホのカメラを変えた。


 そこに立っていたのは。


「貴様!こんなことをして許されると思っているのか!」


 椅子に有刺鉄線で縛り付けられて身動きが取れなくなったテル大佐だった。


 テル大佐は輸送機の墜落から全身の骨を折りつつもどうにか生き延びていた。


 しかしそこを発見された冬狼とサマによって捕らえられ、家族もろともこのショッピングモールへ監禁されたのだ。


 ちなみに家族は駐車場に監禁している。


「許されると思っているのか、だって?


 おい全世界の視聴者諸君、聞いたか?!


 こいつはたった今、自分のやった所業を棚に上げて俺を批判しやがったんだ。


 おっと失礼。こいつがやった所業をまだ知らない人たちも多いと思う。


 だが大丈夫、今からこの俺が至極丁寧に説明してやる!」


 冬狼は妙にハイテンションになっていった。


「おっほん。


 まずこの男は戦争中、自らの部下の少年兵に対して何度も虐待を繰り返した。


 部下だけじゃない、こいつは捕らえた捕虜からも情報を引き出すため苛烈な拷問を行った。


 後々コンプライアンスに引っかかって動画を消されない範囲で言っておくと、暴行、傷害その他もろもろだ。


 詳しくは神聖ファシスト党のホームページに乗ってるから、勇気があるやつは調べてみるといい。


 夜眠れなくなっても一切の責任は取らないけどな!」


 冬狼は怒りと笑いが入り混じったような声をあげながら言う。


「そして戦後、あろうことかこいつは少年兵の一人をとらえ、実際にはない罪をでっちあげて投獄しようとした!


 もちろんその過程で有刺鉄線で電流を流す拷問を行ってなあ!」


 冬狼が怒りに身を任せて叫ぶ。


「でも曲がってもこいつは共和国軍の人間だ。


 だから今までこれらの所業はすべて隠蔽されていたんだが、あまりのヤバさに党が隠し切れなくなって軍法会議にかけた途端、なんとこいつは『独裁者を滅ぼす』なんてきれいごとを言って今まで守っていただいていた党に反乱を起こした!


 まあ党が正義か悪かはおいておいて、こいつがそんなことを言える器じゃあないのは誰の目にも明らかだよなあ!


 挙句の果てにそのために何人もの能力者をだまし続けて配下に置いてきた。


 本当は能力者の絶滅をもくろんでいたっていうのになあ!」


 冬狼がそういうと、コメント欄に


「そうだそうだ!」


「なんてことをやりやがったんだ!」


「本当の戦犯はこいつじゃねえか!」


「党は早くこいつをとらえて処刑しろ!」


 といったテル大佐に関する暴力的なコメントが次々と流れてきた。


「落ち着け落ち着け諸君。


 でもまあ、確かにこいつは裁かれるべきだが、俺は世間のイメージとは違って優しいんだ。


 最後にこいつにチャンスをやることにする!


 先ほども言ったが、そのチャンスとはずばり、こいつに自分の運命を選択させることだ!


 さあテル、選んでもらおうか!お前の運命を!」


 冬狼はテルに刀を向けた。


「A、自分の命と引き換えに、自分の妻と子供二人、そしてここにいまだ幽閉されている数千人のショッピングモールの客を救うか?!


 B、自分の延命と引き換えに、妻と子供と客を殺すか?!


 さあ、答えろ!Aか?Bか?」


 多くの視聴者がAという選択肢を選ぶようにコメントした。


 そして刀を突き付けられ、かすかな声しか出なくなったテルが口にした答えは…


「…B…。」


 自分の延命と引き換えに、妻と子供と客を見殺しにすることだった。


「ふざけるな!」


「本当にどうしようもない野郎だ!」


「最後の最後までクズを貫いたな!」


「なんでこいつが最後まで生き残るんだ?!」


「しゃんぷーおいしい。」


 怒りとバカの声がコメント欄にこだました。


「答えは決まったな!


 それではここで配信を停止させていただく。


 ご視聴ありがとう!」


 冬狼が配信を停止した。


 そしてスマホでとある場所に電話をかける。


「聞こえるか、三人とも。


 冬狼だ。」


「冬狼さん!頼みます、どうか子供だけでも出してください!」


「はっはっはっ!


 ああ、いいものだなあ。親の愛情っていうのは。


 最後の最後でその言葉を出せるって、すごくいいなあ。


 まあ、俺たち少年兵にはそういうのはもういないけど。」


 冬狼はそう言って通信を切った。


 そしてサマに通信をかけなおして、言った。


「やれ。」


「りょうかあい。」


 セキュリティルームにいるサマがボタンを押した。


 消火設備が作動し、炭酸ガスが三人が監禁されている部屋で噴射された。


「きゃああああああああああああああああああああ!」


 三人は叫んで炭酸ガスに包まれていった。


 おそらく5分もたたないうちに呼吸ができなくなって絶命するだろう。


「本当に…、助けて…、くれるのか…?」


 テル大佐が口を開いた。


「は?何を言っているんだお前。」


 冬狼があきれたように言った。


「さんざん人をだまして、拷問して、虐待したような奴を、俺がいまさら許すと思うか?


 いや、許さないね。


 最初からBなんて答えはない。


 お前の結末はAかBじゃない。


 Aを選ばなかったお前の末路はC。


 お前と家族と客を全員ぶっ殺すだ!」


 冬狼は高笑いをあげて言った。


「あと15分くらい待ってやろう。


 それまで自分がしてきたことをせいぜい反省するんだな!


 ま、反省したところでそれを生きて償うにはあまりにも遅すぎるがな!」


「だ、黙れっ!兵器風情が!」


「兵器…?!」


 冬狼が目を見開いてテルのほうを向いた。


「兵器だと?!


 ふざけるな!


 能力者は兵器じゃない!みんな一人一人の人間だ!


 それをあんたは弄んだ!


 一人一人の命をな!


 その罪は今更消えるようなもんじゃあねんだよ!」


 冬狼はテルの顔面を蹴った。


 テルが椅子ごと地に倒れる。


「さあ、時が来たらお前をどう殺してやろうかなあ。


 やっぱりお前がサマにかつてやったみたいに、四肢を指から一本一本そいでやろうかなあ。


 楽しみだぜ!


 はっはっはっはっはっ!」


 冬狼の笑い声が上空に響いた。

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