第25話 緊急命令
「はあ、何とか脱出できたね。」
「ああ。」
二人は脱出した町のホテルにいた。
ちなみにテレとハルシは別の部屋にいる。
四人の脱出後間もなく、3師団が合流した鎮圧軍は最終攻勢を行い、国家都市内にいる第二連隊はほぼ全員が殺害されるか、もしくは逮捕され、第二連隊は降伏。
戦いは一瞬にして幕を閉じた。
「で、復讐は全部果たしたし、無事生き残ったけど、あなたはどうするの?月狼。」
「どうする…って?」
「復讐は終わり、私についていく必要もなくなった。
たぶんもう死に場所は来ない。
この後はどうするつもり?
引き続きGCAで働くの?」
月狼は少し悩んだ後、改めて問い返した。
「じゃあ、逆に問おう。
君はこの後どうするんだい?ライ。
君こそ、当初の目的である復讐は終わったじゃん。」
「私は…。」
ライが言葉につまる。
「そうだよな。
急に聞かれてもわかんないよな。
だって俺もこたえられないもん。」
月狼がベッドに寝っ転がりながら天井を見上げた。
「だけどさ、またあの時みたいに地獄を楽しんだ今だからこそ思うんだ。
別に将来のことを考えてたって仕方がない。
だってこの先どうなるかなんて誰にも分らないだろ?
ひょっとしたら誰かに殺されてるかもしれないし、もしくはずっとどこかを歩き回ってるのかもしれない。
じゃあさ、今を極限まで楽しもうよって、そう思ったんだよ。」
「月狼…。」
ライが月狼の隣に座る。
「まあこういうことを言っちゃってなんだけどさ、実は俺はまだ死ぬわけにはいかないんだよね。」
「え?」
ライが驚いた。
「まだ止めなくちゃいけない奴がいる。」
「まさか…。」
「ああ、兄貴だ。」
月狼がふいに起き上がる。
「兄貴と別れた時、言っていたんだ。
兄貴はいつもそう言ったら本当に必ず僕のもとへ戻ってくる。
戦場でも、戦争が終わった後でもだ。
ということは、きっとまた俺の前へ戻ってくると思う。」
「そういえば、私も冬狼と遭遇したけれど、その時に言っていた。
『最高の狩場を用意してやる』って。」
「間違いない。兄貴は何か壮大な計画を実行しようとしている。
そして必ずそれを使って俺をおびき出そうとしてくる。
その計画で何人かの人が死ぬことになったら、俺も行かないわけにはいかないからね。」
「なるほど…。」
二人は数秒、黙り込んだ。
「で、どうするの?」
「もちろん事が起きたら、いや、事が起きる前にでも兄貴を、、、冬狼を探し出す。
そしてすべてに決着をつけてみせる。
それが俺の当面の間の目標だな。」
チャキン。
月狼が刀を少し抜いた。
「強大であることはわかっている。
だとしても、俺は必ず冬狼を止めなければならない。
冬狼を唯一倒せる可能性がある、たった一人の弟として。」
かつては何人かいた狼も、今はたった二人だけ。
月狼が消えれば、冬狼を止められる能力者は非常に限られてくる。
ゆえに冬狼を絶対に阻止しなければならないような事案が起きた場合、月狼が止めるしかないのだ。
「俺はずっと死に場所を探していた。
でも、ライやグレンと出会って変われた。
確かにこの世界には、常に誰かを束縛し続ける正義や、様々な絶望が埃のように満ち溢れている。
だけど、俺を理解してくれたり、尊重してくれたり、守ってくれる人も確かに存在することを思い出した。
初めて、自分のことを肯定できた気がした。」
カシャン。
カチッ。
月狼は刀を鞘に戻す。
「だから、最後までそういう人を守りたい。
心からそう思えた。
だからこそ、絶対に止めなくちゃいけない。
そういうものをすべてぶち壊そうとする冬狼を。」
「…!」
「そのためには、しばらくの間GCAを利用することになる。
だからしばらくはGCAにいるよ。
だけどそれがすべて終わったら、どうするかまでは考えてない。
まあ、誰がどう言おうと俺は世間的には罪人なんだし、ここにずっといるわけにはいかないかもな。」
「だったらっ!」
ライが月狼の腕をつかんだ。
「っ!?」
月狼が少し戸惑う。
「たとえ何があっても私が月狼を守るからさ。
ずっとGCAにいて。
ずっと私と一緒に働いて。」
「それは…。」
「あっ…。そうだよねっ。
どうしようが月狼の自由だもんね。」
ライが手を離す。
「でも…。
月狼がGCAを出てどこに行くことになっても、私は最後までついていくから。」
「えっ…。」
あまりの急展開に月狼の脳がオーバーフローを起こした。
「私知ってるよ。
確かに、月狼が責められても仕方ないことをしたことは。
でもさ、それは仕方ないことだし、なによりいいところのほうがいっぱいあるんだもん。
だから監獄で私を助けてくれた時も、私の復讐についてきてくれたこともすごく感謝している。
そのお返しみたいなことができたらなって思ってさ。」
「何言ってるの?俺は君がいるだけでしあw…」
「だからずっとそばにいてあげるって言ってるんだよ。」
ライが月狼の手をつかんだ。
「あ…ありがとう。」
月狼がぎこちなく答える。
「まあ、終わった後のことは終わった時に考えるとして、まずは冬狼が先だ。」
「そうだね。」
月狼がふと月を見上げてみた。
淡い黄色の三日月が、夜の街に一つ浮かんでいた。
「きれい…だな。」
「そうだね。」
ライがふわあ、とあくびをした。
「寝るか。」
「うん。」
二人は電気を消してベッドの中に入った。
一応ベッドは二人分ある。
のだが
「同じベッドで寝ていい?」
「は?」
ライが月狼と同じベッドに入った。
「え、ちょっと待って、何をしてるの?」
「ええ?同じベッドに入っているだけだけど。」
「なんで?」
「理由なんかいらないでしょ。」
まあ確かにそうだ、と納得して月狼はこの状況を受け入れたい気もしたが、
(確実に取り返しのつかないことになる。)
そう思ってベッドから脱出しようとした。
だが
「どこに行くの?」
ライがものすごい力で月狼の腕をつかむ。
さらに月狼の脚を自らの脚で拘束し、体重をかけて動けないようにした。
「たとえ非力でも、やりかたによっては自分より力のあるものを拘束できるようになる。」
訓練研究所で教えてもらったことを思い出した。
月狼は必死でもがこうとするが、そのたびに拘束が強くなって身動きできないようになる。
月狼はあきらめてこの状況を受け入れた。
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「おはよう。」
「おはよう。」
なんやかんやあって翌朝を迎えた。
時刻は午前9時半。
結構遅い時間だ。
「じゃあとりあえず、食べようか。」
「ああ。」
その時。
ピピピピピピピピピ。
ライの電話が鳴った。
「何?!」
「ライ、出てくれ!」
「うん!」
ライが電話に出る。
「こちらGCAのライ!」
「ライか。大変なことが起きた。
冬狼たちがショッピングモールを占拠した!」
「なんですって?!」
ライが叫んだ。
そしてスピーカーに変えた。
「何が起こったんだ。」
「冬狼がついに事を起こした。」
「何!」
「彼は屋上にテル大佐を人質に取った。
そしてテルを尋問し、テルの命を奪うか、もしくは自らの延命と引き換えにテルの家族とショッピングモールにいる人を二酸化炭素式消火設備で殺害するかを選択させようとしている!」
「あの男は自分を犠牲に誰かを守ろうとするタイプじゃない。
ということは間違いなく答えは後者になる。
そうすれば甚大な被害が出る…。」
「いよいよ時が来たようだな。
まさか向こうから動いてくれるとは思わなかったが。」
月狼が刀を取った。
「でも、ショッピングセンターまではどうやっていくの?
ここからは結構離れているよ?」
「心配ない。
私が既にスマホの位置で君たちを特定して車を用意してある。
それに乗ればすぐに目的地に着くだろう。」
「ナイス!」
二人は荷物をまとめると、すぐに電気を消して部屋を出た。
「さあ、始まるぞ。
決戦がな。」
「うん。」
二人は走って階段を下った。
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