第24話 脱出
「おかえり。」
ビルから降りてきた月狼を、ライがバイクの上で出迎えた。
その時。
ドゴォォォォォォォォン!
ロケット弾が少し後ろの建物に直撃した。
基礎部分が破壊された建物が倒壊する。
ドシィィィィィィィィィン!
「どうやらタイムリミットは迫っているようだな。」
「月狼!乗って!」
「本当は運転がしたかったが、仕方ねえな!」
ブゥン!
ライがバイクのエンジンを入れた。
バイクは猛スピードで進む。
そして角を曲がった時、
「…!」
道の隅っこで軍服を着た二人の少女がうずくまっていた。
一人が泣いているところを、もう一人が慰めているようにも見える。
「ライ!止まれ!」
月狼がライに叫んだ。
「何!?」
ライは言われた通りオートバイのブレーキを握る。
キィッ。
バイクが停止した。
月狼が先ほどの角にわたる。
「どうした?」
「月狼っ!?」
慰めていたほうの少女が叫ぶ。
月狼が手で何かをしようとする少女を制した。
「大丈夫だって、別に殺しはしないよ。
殺したって何の意味もないし。」
「でも…、私たちは敵だよ?
それに、ついさっきまで本気であなたたちを殺そうとしてたし…。」
「そうか…。
やっぱりそうだったんだね。
うすうす気づいてたよ。
ほかにも俺を殺そうとしてたのがいるってことには。
それが君たちだってことにも。
まあ、それが分かったとしても、俺は君たちを殺すつもりはない。」
その時。
「怖いよ…。テレ…。
私たちこのまま月狼に殺されて死んじゃうの?
爆発音とかも聞こえているし…。
誰か助けてよぉ…。」
「泣くな。泣いたってどうにもならない。ハルシ。」
月狼はテレがハルシを慰める様子を様子をずっと見ていた。
(そうだ。いくら戦場を生きてきたとはいえ、能力者たちもまだ20年も生きていない子供だ。
爆発音がして怖さを感じるのも不思議じゃない。
というか、こんな地獄みたいな環境に子供が置かれること自体がそもそも異常なんだ…。)
今までずっと理解していたが胸の奥底にしまっていたことが、急にあふれ出してきた。
「…ライ!」
「何?」
「この子たちも一緒に地下鉄に送り届けていいか?」
「え…?
何を言っているの?
このバイクは二人乗りだから乗せられない。
だから行くとしたら徒歩になるけど、効率が下がるし、間に合わない可能性あって出てくる。
何よりこの子たちを連れて行ったら、私たちも巻き込まれる可能性が大幅に上がるよ?」
ライは落ち着いて言った。
「だとしてもだ!
俺は今まで多くの人を殺した。
老若男女問わずな!
もちろん、誰も傷つけないことなんて不可能だっていうのはわかってる。
でも、俺にはできない。
これほどの圧倒的な力を持っておきながら、たった二人の無力な少女を見捨てるなんて!」
その答えを聞いたライはまるでその回答を待ちわびていたかのように笑った。
「本当にいいの?」
「ああ。たとえこの四人もろとも死んだとしても、後悔は一切ない。
それが俺が持つ数少ない良心の一つだ。」
「分かったよ。じゃあ、行くよ!」
ライが全速力で地下鉄まで走り出した。
「あ、ちょっと待てよ!」
「なんだかよくわからないけど、ついて言ってよさそうだ。いくよ、ハルシ!」
「…うん!」
テレは足をくじいていたハルシを抱えると、ライの後を追って走り出した月狼についていった。
四人は敵味方双方があまりいない町をしばらく全力疾走していた。
ドゴォォォォォォォォン!
近くで砲弾の音がする。
「大丈夫?」
ハルシが泣きそうになりながら言った。
「きっと大丈夫だ。もうすぐ着く。」
月狼が走りながら言った。
「あった!」
ライが叫んだ。
そこに行ってみると。
「本当だ…。
急いで逃げるぞ!」
「うん!」
四人は急いで階段を下った。
だがここで問題が発生した。
「畜生、ろくに機能してねえ改札がある!」
改札が四人の行く手を阻んだのだ。
もちろん四人とも改札を通れる金はない。
「仕方ない…。
私の後ろに立たないで。」
ライが無反動砲を取り寄せた。
「おい何するんだ!」
「食らえ!」
ドォォォォォォォォン!
ライが無反動砲で改札を吹き飛ばした。
「大丈夫、この弁償は必ず経費として降りるから。」
「知るか!」
月狼は突っ込みつつ地下鉄の線路に飛び込んだ。
地下鉄は反乱が始まった直後にすでに封鎖されていて、線路上を歩いても問題はない。
三人は線路をただただ駆けた。
三駅ほど先の駅まで走った。
「よし、とりあえずここで降りるぞ。」
四人は地下鉄の駅に上る。
「ふう。ここまでくればもう安心だ。」
四人は散々走ってきた反動で疲れ切っていた。
「あの…!」
テレが口を開いた。
「ありがとう…。」
「別に気にしないでいいよ。」
月狼はそう言って静かに微笑みかけた。
かくして、四人は危険な戦場を脱出することに成功したのだった。
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