第6話 爆弾魔
翌朝。
月狼はずっと路上で寝転がっていた。
「なんで僕があんなよくわからない奴と。しかもなぜ兄貴が犯罪者になっているんだ。」
戦場にいたときの癖で刀を抱きしめながら寝ている。
「ふぁあああああ。ねむ。戦場ではすぐ寝れたんだけどな。」
もう朝になっているが、彼はもう一晩中寝ていなかった。
「夜って退屈だな。まあ、寝たら悪夢を見るだけなんだが。」
戦争が終わって以来、彼はずっと眠れず、眠っても悪夢にうなされ続けていた。
いつも殺した敵の、そしてその遺族の声が悪夢となってフラッシュバックする。
そのため戦後一年間の睡眠時間は720時間(一か月)も超えていない。
葬儀屋の事件以来、2日間命令はなく、ただ本部に来て止まるだけの日々を送っていた。
「そろそろ疲れたな。」
その時。
「…おはようございます。」
「うわっ!」
ライが急に転がっていた月狼に声をかけた。
「…どうせ寝てないくせに、なんでそう驚くんです?」
ライが月狼の目をのぞき込む。
「だっていきなり声をかけられたら誰だって驚くだろ…。」
月狼は体を起こした。
まだ瞼は重い。
「…ほら、そろそろ出勤の時間ですよ。」
「ちょ、ちょっと待ってって!」
月狼はライを追いかけた
機関の存在は地下室にあり、完全に極秘されている。
その実態を知るのは神聖ファシスト党の一部役員のみだ。
「やあ、ようこそ。」
エミが出迎える。
「さて、今までは毎日のように発生していた能力者犯罪だけど、ここ最近仕事がないね。やっぱり葬儀屋の一件がある程度の抑止力になったのかな。」
「どうなのかはわかりませんけどね。」
月狼はスマートフォンを見つめながら言う。
「まあ待てGCAの仕事は何も能力者犯罪の鎮圧だけじゃない。
能力者犯罪の抑制も君たちの大切な仕事だ。」
「抑制?」
月狼が訪ねる。
「そう。
知っての通り、このGCAは警察庁とはまた別の機関だから、いくつか警察には認められない権限が認められている。
その一つが、『犯罪者の事前逮捕および事前消滅』だ。
通常、共和国の警察は内乱罪の容疑者と現行犯以外は、原則として犯行前に逮捕することはできない。
だが、GCAには能力者による犯罪計画が発覚した時点で、対象人物を拘束、および殺害する権限が特例として認められている。」
「なるほど。」
「つまり、今回の仕事は君たち自身の足で犯罪を計画する奴を探し出して、どうにかしてほしいということだ。」
「…分かりました。ほら、行きますよ、バディ。」
ライが武器と荷物を持って立ち上がった。
「僕と同じで行動だけは無駄に早いな!」
月狼も急いで荷物と刀を持って行った。
=============
「調査書によると、ここらへんで火薬のにおいがしたという通報があったみたいだな。」
「…ええ、そうです。」
二人がいるのは、旧連邦国の廃兵器工場だ。
その後共和国によって破壊され、戦後は共和国に接収されたが、あまりに荒廃していたため放置され、今では稼働していないはずだ。
「…廃工場ってことはどこかの犯罪組織の巣窟になっている可能性も十分考えられますね。」
廃工場であるから当然閉まったままに名
「うん。特に放置されたままなら、兵器を作る設備とかもたくさん残っているはずだし。」
二人は工場内の入り口に向かった。
廃工場だから当然閉まったままになっている
…はずだった。
「…やっぱり予想通り、入り口は破壊されていますね。」
鍵がかかっていたはずのシェルターにはちょうど人が入れそうなレベルの穴が開いている。
「そうだな。つまり、誰かがここに出入りしてるってことか。」
「念のため、武器を抜いておきましょう。」
「そうするか。」
ライはUZIを、月狼は背中の刀を抜いた。
工場には生産ラインや部品、簡易的なロボットなどの機械が並んでいたが、今では何一つ起動していない。
「やっぱり設備は動いてないみたいですね。」
「そうだな。待て。」
月狼が何かを見つけた。
「何ですか?」
「生産ラインを見ろ。」
そこには、ここにあるはずのない何丁ものM4ライフルが置いてあった。
「ライフル?!」
「しかも、これ連邦国が使っていた武器とは違います。」
「ああ。僕もこんな銃を戦場で使った記憶はない。」
「まさか、、、、、、密造されていたのか?」
「いえ、設備は長い間稼働していないので、おそらくこれは購入された完成品でしょう」
「あれは!」
そこに置いてあったのは
「機関銃?」
「ありえません。連邦国にも共和国にも使用されていなかった武器が、こんなに保管されているなんて。」
「詮索はそこまでにしてもらおうかな。」
突如後ろから声がした。
「誰だ!」
「やあ。」
後ろに一人少年が立っていた。
「誰かと思ったらお前か、グレン!」
「グレン?」
「ああ、グレネードでグレン。戦場の爆弾魔だ。」
「ご丁寧に説明ありがとう。月狼のお兄ちゃん。
ようこそ、僕たちの秘密基地へ。」
グレンはこちらへと歩き始める。
「秘密基地?」
「そう。今まで居場所がなく放置されてきた僕たちのための、お兄ちゃんが作った居場所。
誰のためでもない、ただ自分たちのために生きられる場所さ。」
「お前は何を言っているんだ?そもそも、お兄ちゃんって誰だよ!」
「君がよく知っている人だよ。」
グレンが笑いながら言う
「君なら彼の理想がわかってくれると思ったんだけどなあ。月狼兄ちゃん。
それでもどうしてもこの場所を汚すというのなら、仕方ないね。」
グレンのベルトから鉄パイプが取り出された。
「君と一緒にこれで遊ばせてもらおうか!」
グレンは鉄パイプをぶん投げた。
「よけろ!」
二人は即座に生産レーンの後ろに隠れた。
パイプは生産レーンの一歩手前に転がる。
そして
ドゴォォォォォォォォン!
大爆発を起こした。
そこら中にパイプの破片が飛び散る。
「何ですかあれは!」
「これが奴の能力だ!触れた有機物を爆発させることができる!」
「鉄は有機物じゃないですよね!」
「おそらくパイプの中に有機物を仕込んでたんだろう!」
「どうしますか?」
「僕が行く!」
月狼は能力を発動せずグレンに突撃した。
「ははははっ!月狼のバーカ!僕が爆弾以外の武器を持っていないとでも思ったの!?」
グレンがハーネスの後ろに手を伸ばす。
銃器を取り出すつもりだ。
(かかったな。この瞬間を見逃すほど僕は甘くない。)
月狼はすぐに能力を発動した。
そしてすぐにグレンの目の前まで近づき、彼の首に刀を向ける。
「これで終わりだ。」
月狼の手にかかれば、そこら辺の能力者なんぞは敵ではなく、一瞬でグレンを制圧した。
…はずだった。
「とでも思った?」
グレンはそう言って彼に触れる。
(しまった!)
先ほど月狼が説明していた通り、グレンの能力とは、触れた有機物を爆発させるもの。
月狼が着ている革ジャンも、そして月狼の人体も、全て有機物である。
すなわちこの状態でグレンに能力を発動されると、月狼は爆発する!
(まだだ!)
月狼は慌てて能力を発動して振りほどく。
しかし、そこで力を抜いてしまい、刀を取り落とす。
(まずい!)
グレンはすぐさま落ちている途中の刀のみねをキャッチした。
「はははははっ!百人殺しの狂犬も、一瞬の油断で武器を取り落とすなんて、だいぶ弱くなったね!」
「くっ!」
月狼の能力は、近接武器を使用することで最大限の効力を発揮する。
他にベレッタM12を装備しているが、ベレッタM12が発射する弾丸は彼の能力によって加速することはない。
他にも近接武器の王道として拳があるが、こちらも殴ってグレンと接触した瞬間に能力を発動されたら爆発してしまうため意味はない。
すなわち、グレンに刀を取られたこの瞬間能力者としての月狼は完全に詰んでしまったのである。
「ここで死んじゃったら楽しくないからさ。二人とももっと楽しませてよ!!!
特に、そこで隠れてるお姉ちゃん。」
グレンが生産レーンに隠れているライのほうを指さした。
「ライ!」
「速く出てきなよ!もっともっと僕を楽しませてよ!」
グレンが二発目のパイプ爆弾を投げる。
そしてそれが生産レーンの内側に入った。
ライは急いで生産ラインの外側に出た。
ドゴォォォォォォォォン!
ライは爆発を回避した。
「危ないところでした。
あなたにはすぐ死んでもらいましょう。」
「はははははっ!
そうだよ!その意気だ!
じゃあ次はこれを食らってもらおうかな?!」
グレンは指先に何かを持った。
そしてそれをライと月狼に投げる。
それは何の変哲もないダーツだ。
能力によって爆発することを除けば。
しかし当たらなければどうということはない。
ライはそれをいとも簡単に避けた。
ライのほうへとダーツは生産レーンに突き刺さり
ドカン!
爆発した。
ドカン!
一方月狼のほうに飛んできたダーツも爆発した。
バン!
月狼はグレンにベレッタM12を構える。
パパパパパン!
銃弾をグレンに向けてフルオートで放った。
「あれ、撃たれても死なない?」
「畜生!」
月狼は悔しがる演技をした。
死なないのは非致死性弾だから当然だ。
(これで一瞬油断させる。あとはこっちを向いたすきに彼女がどうにかしてくれればっ!)
「はははっ!弾丸の威力弱すぎでしょ!あれ?」
グレンはとあることに気づいた。
自分が持っていたはずの月狼の刀がない。
「か、刀がっ!」
そして刀は元の持ち主、月狼の手にあった。
「「なんで?」」
ライ以外の二人は予想外の出来事に驚く。
「私の能力で刀の場所を少しいじらせてもらいました。」
「仕方ない。あれを使うか!」
グレンはついに背中からM4ライフルを取り出した。
「これでお姉ちゃんは終わり!」
そしてそれをライに向かってぶん投げる!
真っ黒なM4は一見すべてが金属製に思えるが、銃床やグリップなどはプラスチック製だ。
そしてプラスチックは有機物だ。
ご想像の通りグレンが触れれば爆発する!
しかし、そんな捨て身のライフルグレネード(物理)もあっさりとライに避けられた。
ライフルはライの後ろで大爆発を起こす。
ドカァァァァァン!
生産レーンは完全に破壊された。
「これであなたは終わりです。おとなしくここで死んでもらいます。」
「そこまでだ!」
パン!
突如ライに小銃弾が発砲された。
「?!」
幸いライには当たらなかった。
「銀行強盗から帰ってきたと思ったら、まさかこんなことになってたなんてな。
久しぶりだなぁ、兄弟!」
「兄貴…!」
そこにいたのは、間違いなく月狼のかつての兄弟、冬狼だった。
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