第3話 葬儀屋

 3人を乗せた車が現場に到着した。


「さて、ようやくついたね。ここからは君たち自身で行動してもらうよ。ちなみに相手の能力は不明。室内の状況もよくわかっていない。」


「戦場だと最悪な状況じゃないですか。」


「まあ確かに。でも、君たちなら何かできるでしょ?」


 エミは不敵な笑みをこぼす。


「僕たちを使い捨てとでも思ってるんですか?」


 月狼がキレ気味に言う。


「私は思ってないよ。ただ上の連中がそう思ってるだけ。いまだに能力者を人間と思ってない。」


 月狼とライは車から降りた。


「じゃ、ここからは私はかかわらないからそのつもりで。君たちを送り届けた後に重要な任務が待ってるからね。」


 降りた先にはスラム街が広がっていた。


 戦争が終わってから1年たった今も戦時中の弾痕があちこちにある。


 そして巨大なトラックが放置されていた


「…それで、今日の任務は何ですか?」


「ああ忘れてた。」


 絶対に忘れてはならないものを忘れるエミ。


「今回の任務はね、とある奴を抹消してきてほしいんだ。」


「とあるやつ?兄貴?」


「違うね。冬狼についてはこちらでも捜索を進めているが、今回は腕試しみたいな感じだから、そんな100人殺しの狂犬を信頼できない君たちに任せられないし。」


「100人殺しの狂犬…。」


 月狼が息をのむ。


「で、そのとある奴とはこいつ。」


 エミは携帯電話で顔写真を表示した。


「こいつは?」


「誰かはわからない。ただこいつが怪しいことは確かだ。


 こいつは数日前に起きた大学大量殺人事件の容疑がかかってるんだ。」


「…あの学生や教授が犠牲にあった事件ですか。」


 ライが淡々と口にする。


「そう、単独犯にしてはあまりに多い殺害数。能力者としてもね。


 範囲攻撃系の危険な能力を持っている可能性もある。心して取り掛かってね。」


「…わかりました。」


「それと、GCAはあくまで警察ではなく準軍事機関。容疑者の段階でも殺害してかまわないから、いざというときは犯人を殺して。」


「…わかりました。」


「それじゃ、気を付けて。」


 エミは車のドアを閉めた。


 そして猛スピードで車を走らせる。


「さて、任務に取り掛かるか。まず犯人がどこにいるかだ。」


「よっ」


 どこからか声がした。


「誰だ?」


「おいおい、忘れたのか?兄貴にはずいぶん世話になったんだが。」


 帽子をかぶった少年がトラックの燃料を補給している。


「葬儀屋…。」


 月狼が少年のコードネームを口にする。


「その通り。


 久しぶりだな、月狼。」


 妙にフランクに話しかけてくる。


「で、何の用だ?」


「実は、警察組織に再就職してね。


 大学襲撃事件の調査をしている。」


「へえ。」


 葬儀屋が急に補給をやめた。


「あんたを逮捕することになりそうだ。」


「なあるほど。」


 葬儀屋が突如としてPP19Bizonサブマシンガンを取り出した。


「じゃあおとなしくぺちゃくちゃしゃべってるわけにはいかねえなあ!


 そうだよ!犯人は俺だ!


 すっげえ楽しかったぜ!」


 葬儀屋はははははっ!と笑う。


「なぜそんなことを!」


「お前にもわかるだろ!


 仕事にもつけないし学校にも行けないこの状況じゃ、ろくな生活ができない。


 なら人を殺しまくってストレスを解消するくらいしかやることがないもんでねえ!」


「ふざけるな!人の命を奪っていい理由になんてならない!第一お前も大人たちに騙され、傷つけられてきただろう!」


 月狼が激昂する。


「だからこそ他人を傷つけるのさ!


 戦場では国のために人を殺していたが、今は自分のために人を殺している。最高だ!」


 葬儀屋は高笑いを上げた。


「…無駄です。撃ちましょう。こいつに話は通じない。」


 ライが即答する。


「そのようだ。」


 二人は葬儀屋にベレッタM12サブマシンガンを向ける。


「仕方ないな。さすがに2対1だと不利だ。死んでもらうか」


 葬儀屋は上空にPP19を発砲した。


 すると後ろのトラックの扉がけ破られ、大量の人が現れた


 しかし、それは人と呼ぶには少し語弊があった


 蒼白の瞳。胴体には複数の弾痕がある。


「じゃ、後は頼んだぞ。」


 ライと月狼はトラックから襲ってくるそれらから距離を取る。


 その人、否、生ける屍ゾンビは次々と二人に襲い掛かってくる。


 ライはベレッタM12を連射した。


 当然ゾンビは次々と倒れていく


 …はずだった。


 ゾンビは撃たれても平然と起き上がったのだ。


「あ、言ってなかったが、こいつらはゾンビ。俺の能力で動いてるだけの死体だ。こいつらは殺されても死なない。俺が能力を解除しない限り半永久的に動作し続ける。」


「くそっ!」


 銃は撃たれたら動きが止まるからこそ意味がある。


 撃たれても死なないのなら意味はない。肉薄されて終わりだ。


 さらに遠くからPP19による援護射撃が待っている。


「どうだ?こっちに近づくことはできまい!」


 銃弾はゾンビに当たったりその場で月狼が切り伏せたりして、どうにかなっているが、ゾンビが肉薄してくる前ではあまりにも邪魔になる。


「ちっ。弾を使い切ったか。」


 葬儀屋はまだベルトに大量に弾倉が残っているのに急に撃つのをやめた。


「じゃあな、月狼さん。」


 トラックに飛び乗る。


「余罪に無免許運転が追加されたな。」


「…どうしますか。このままこいつらを殺しても何も解決しない。あいつを撃とうにも、ゾンビが邪魔で動けません。」


「そうだな。次々とゾンビが来てる。倒しても復活するから20人くらいしかいないけど面倒だ。仕方がない。使いたくはなかったけど…」


 月狼が斜め上に銃弾を一発放った。


 すると、月狼の一直線上にいたゾンビがすべて吹っ飛んだ。


 ただ切り傷や銃弾の跡は一切ない。


 ただ邪魔をするものだけをどかしているだけだ。


「これは!」


「そういえば見せたけど言ってなかったね!僕の能力!」


 空っぽのトラックの荷台に飛び乗った月狼が叫ぶ。


「僕の能力は時間操作!能力発動時の発動者計測で10秒間自分の時間を早めたり遅くしたりできる。ただ遅くする能力は使い道がないけどね!」


 どうだといわんばかりに語る。


「多分トラックからはばれてない!このままトラックが止まるまで追跡する!」


 月狼はトラックの荷台に乗りながら走っていった。


 ライがスマートフォンを取り出す。


 電話をかけたのは、トリーだ。


「…こちらライ。犯人がトラックに乗って逃走中。月狼が現在、トラックの上に乗っています。至急応答願います。」


「え?犯人トラック持ってたの?


 ごめん。今結構遠く離れた位置にいる。


 月狼君にはあと30分くらい持ちこたえてもらうしかない。」


「…そうですか。」


「まあ、元100人殺しの狂犬だ。きっと耐え抜いてくれると信じてるよ。」


 そういってエミは無線を切った。

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