第3話

ホテルのレストランへやってきた。武はコースを頼んだ。


「これ高いんじゃないんですか?」


 実樹が、テーブルに少し身をよりだし、聞いてきた。それは、興味本位でもありそうだし、そういう扱いをされてるということがうれしそうだった。


 何か会話ないかな。武は少し考えながら、結局、実樹との付き合いはこれまで、それほどもなかったので、これといった会話が見つからない。


 実樹は、さっきから窓の外をじーっと見ている。何も言わないまま。武が話しかけるのを待っているでもない、ビル13階から見える夜の景色をただ黙々と眺めていた。


 なにをそんなにじーっと見るものがあるのだろう。ここには、会話する必要がないんだろうか。窓の外をみているだけで退屈ではないのだろうか。


「なに見てるの?」


 ふいに武がたずねた。


「ビルの窓をみてるんです。無数に建っていて、その、ひとつひとつある、ビルの窓の灯りを」


「そんなに不思議?」


「はい。この無数のビルの窓の灯りと、その数だけそれぞれの人生のがある。そう思うと、なんだか不思議な気分になっちゃって」


 確かに言われてみれば、そうだ。何百個ある灯りが存在し、人口もそれ以上に存在している。もちろん、みんなそれぞれの人生を背負っている。


 それぞれに、ドラマがあり、働いている人もいれば、もう家路にたどり着いた人もいるだろう。


「結構、ロマンチストだね」


 武がそういうと、


「そうですか?」


 実樹は平然とした顔をしていた。


「そういえば、お母さんのことだけど……」


「ああ……」


 たずねると、実樹は急に暗い表情になった。


 そこに、ウエイターが食前酒を持ってきた。


 グラスにワインが注がれる。

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