第4話
「チアーズ!!」
武は言ってみた。
「チアーズ!!」
実樹も明るい表情になり、二人はワインを口にはさんだ。
「私、こういうところ、はじめてなんでです」
彩子と武が働くようになってはじめてきたデートの場所だ。でも、武はそのことを口にしなかった。
やがて、食事が運ばれてきた。
二年ぶりになるだろうか。そのホテルにやってくるのは。そう言えば、彩子と学生の頃付き合いだし、就職してからは、ろくな場所にも彩子を連れて行ってやってないな。そんなことを考えながら、武は実樹と食事をしていた。
とりとめのない会話や、仕事の話をし、実樹は母親のことを話さなかった。食事も終わり、お金を払うと二人は、一階にある川の見える庭に足を運んだ。
「わあ、きれいですねー」
川には、屋根のついた食事のできそうな大きな船が、走っていた。
「ああいう船にも乗りたいですよねー」
今度はあれに乗ろうよ、と言いたいところだったが、武はもう彩子と結婚をする。よく考えたら、いや、よく考えるまでもなく実樹とこんなところに来て、いい雰囲気になってる場合ではない。武は、楽しもうとする前に実樹にたずねた。
「実樹ちゃん。あの、お母さんのことだけど」
実樹の表情が急に暗くなった。武は、まずいことを言ったと思ったが、今日は実樹の母親の話を聞くために、ここへやって来たのだ。そうでないと、彩子に対してしるしがつかない。もしばれたりでもしたら……、そう思うと、さっきから落ち着いていられないのだ。
「亡くなったんです」
ボーッ。船が音を立てた。
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