第2話

まあまあまあ、お父さん。そういうのは、二人に任せておけばいいじゃないの」


 母親がなだめる。


「ん?そうか?」


 父親は不本意そうだったが、さすがに、自分の出る幕ではないとあきらめた。 




 三日が過ぎた。武は会社で仕事を終え、帰ろうとしていた。


「望月さん!」


 自宅に帰ろうとする武に、新入社員の実樹(みき)という女性が呼び掛けた。


「おお、実樹ちゃん。どうしたの?」


「食事、ご一緒しませんか?」


 武は、揺らいだ。まさか、女性社員から食事に誘われることなど初めてだった。


 しかし、行くわけにはいかない。結婚前にほかの女性と二人で食事など。


「うれしいけど、実樹ちゃん。でも、ほら、僕、結婚前だし」


「相談したいことがあるんです」


「相談したいことって、ここじゃだめ?」


「母のことで、少し......」



 武の父親は、一歳の頃、母親と離婚し、父親の顔も知らないまま育った.。母親は、女手一つで、武を育て、五年前、亡くなった。過労からくるものだったと思われる。武はその頃、大学生で、学費を母親一人に稼がせて苦労をさせたんだと、自分を責めた。そして、涙が止まらなかった。最後の学費は、母親の生命保険から支払われた。最後まで、親孝行できなかったと、後悔している。


 実樹が、母親の話を聞いてほしいとは、他人ごとに思えなかった。


「わかったよ、実樹ちゃん。少しだけなら付き合うよ」


「え!ありがとうございます!」

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