第2話

つかの間の一家団欒を壊すかのようにそう言ってしまった。

彩子の父親は、重いため息をつき、

「彩子、案内してあげなさい」と言った。

彩子は、なんともないような顔をして、

「武さん、ついてきて」と言った。

「はい」と、どこともつかないような返事で、立ち上がり彩子について行った。廊下を真っ直ぐ歩いたところで、彩子は、父親と母親に聞こえないように言った。

「たけ、緊張しすぎよう」

「それは緊張するよ」

「今だって、トイレ、もっと早くに言えばいいでしょう」

「だ、だって」

「みんな分かってたわよ、たけがトイレに行きたがってたこと」

「うそ」

「だって、足むずむずさせてたもん。父さんも母さんも、ちゃんと分かってた」

「そ、そうなんだ」

「大丈夫よ。父さん、私たちの結婚、まんざらでもないんだから」

「そ、そうかな」

「そうよ。もっと自信をもって、ファイト!」

「うん」 武がトイレについたところで、彩子はこぶしを握りしめて、武に見せた。それでも不安な面持ちで、トイレへ入って行った。便器の前で用を足した。小便の温度がいつもより高く感じられ、湯気が顔にかかった。

「大丈夫。おれはちゃんとやれてるさ。いいぞ武、いいぞ武」

手を洗う洗面台の自分のうつった鏡の前で、励ますように言って、ほっぺたを両手でたたき、ひとり言を言った。トイレを出て三人のいる場所へ戻っていくと、そこには、おすしがずらりと並んでいた。どうやら武がトイレへ行っている間、届いたようだ。




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