最終話 メタフィクションの構造

「っだあああああああああああ! 終わったあああああああ!!」


「お疲れ」


 ごきごきと肩を鳴らした俺を見て、コトリ、とデスクの横にアイスティーが置かれた。夏らしい柑橘系のフレーバーティーは、学生時代から贔屓にしているカフェで、期間限定販売されていたものらしい。


 先代の跡を継いだ甥夫婦がやっている喫茶店は、雰囲気が良くて味も良いのだ。窮屈そうにカウンターに収まる旦那と、ちょこまかしながら注文伺いに配膳下膳と頑張る奥さんのコンビはいつ見ても微笑ましくなる。


 またいくか、と思いながらカップの中身で喉を湿らせたところで彼女はにっこりと微笑んだ。


 俺は今、生まれて初めての恋愛小説に挑戦していた。


 契約している出版社が新しく恋愛系のレーベルを立ち上げることになり、そのオープニングをにぎやかすために書き下ろして欲しいと頼まれたのだ。


 長く書いてるといろんなことを頼まれるが、仕事があるのはありがたいことなので決して断らないのが俺の信条である。


 慣れない恋愛モノに四苦八苦したが、どうにかこうにかエピローグまで書ききったのが今であった。


「で、美華ちゃんと陸くんはどうなったの?」


「いや、そりゃくっつくでしょ」


「まぁ、それはそうよね。ちょっと読ませて」


 ずずいと身を乗り出した彼女は、マウスを動かしながら原稿を目で追っていく。


 一〇分が経ち、二〇分が経つ。


 だんだんと険しくなる彼女の表情は、やがて最終話を読み終えたところで怒りに染まっていた。


「はぁ!? アンタのどこがこんなに男らしい訳!? 美化しすぎでしょ!」


「別にこんな感じだっただろ!?」


「どこが! もっとゴニョゴニョ言ってたし、前っ然聞き取れなかったんだからね!?」


「おまっ、じゃあなんでオッケー出せんだよ!? 聞き取れてたんだろ!?」


「そもそも美華って弱すぎじゃない! あの程度で泣いたり絶筆とかあり得ないし!!」


「あの時、絶対泣いてたぞ!? 何ならギャン泣きに近いレベルだったろうが!」


「うっさい元陰キャ! 言語化できないくらいどもりまくってたくせに!」


「黙れ元ギャル! まつ毛むしるぞ!?」


 俺たちが罵りあう部屋の片隅。


 額縁に納められた手書きの券と、二人のものと決めた古ぼけた部誌が俺たちのやり取りを眺めていた。


【おしまい】

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【完結】高校一可愛い現役モデルがラノベの書き方を教えてくれと弟子入りしてきた件について 吉武 止少 @yoshitake0777

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