第13話 冴えてる妹の育ち方

「亜香里、ちょっと、良いか?」


 夜。


 自室に戻って受験用に勉強をしようとしていた妹を呼び止める。


 ツインテールの跡がついて髪が左右に広がった感じになっている亜香里が俺の方を向いたので、さっそく本題を切り出す。


「あああ、亜香、里、メイド、服、持って、たっ、よな?」


「うん。一応あるけど」


「かか、貸して、くっれない、か? あと、サイズ、っ指定する、から、知り合いっに、借りて、欲っしい」


 頭を下げてお願いすると、亜香里は何とも言えない表情になる。


 親父に『何でも好きなものを頼め! おごりだぞ!』と言われながらも牛丼屋へと連れていかれたときの表情である。


「あのね。お兄がそういうことに興味を持ってくれたこと自体は嬉しいし、別に反対もしない。だけど、いくらお兄が細身だったとして男女だと骨格が違うの」


「いい、いや、ちょっと」


「女性服を借りるんじゃなくて、男性用の骨格に合わせて作らないと、着ても変な感じになるだけだよ?」


「お、俺が、着るわけじゃ、っねぇよっ!」


「えっ……鑑賞用?」


「ちちち、違、う。友達、が、文化っ祭、で」


「えっ……お兄、友達いたの!?」


 流石に酷ぇよ……!


 反論するも、


「いや、陰キャ・ぼっち・根暗っていつも自分で言ってるじゃん」


 敢え無く撃沈。妹の中での評価が変わることはなさそうである。まぁこれは俺自身が主張してたことだし仕方ない。


 とはいえ目的のメイド服に関しては割と良い感じのOKを貰えた。


 といっても亜香里は結構こだわり派だ。


 数年分のお年玉貯金で買ったロックミシンを使って自作もするし、何なら型紙を起こす練習なんかもしているんだとか。


 三者面談で進路希望に『メイドカフェ経営』『コスプレ喫茶運営』『服飾デザイナー』と書いて担任・母親と揉めた際に、現実的な夢として目指していると豪語していたのは記憶に新しい。


「じゃ、その人たちに会わせて」


「な、っんで?」


「ほんとに女性――ゴホン。一般的な服よりタイトなつくりになるから、採寸とか必要なの」


 ……お前いま、兄の友達がホントに女か疑ったろ。


 進路で揉めた時に味方してやったの忘れたか?


 飲食店経営でもデザイン方面でも、具体的な経営案と仮想損益なんかの表作り手伝ってやっただろうが!


「二の腕とかも測るし、ウエストだって三か所くらい測らないと可愛く着られないんだよ?」


 何かもっともらしいことを言っているけれど、女かどうか疑ってることに気付いてるからな。


「わわわ、分かった。こん、度、会わせ、る」


「エッ、ホントに!? 女の人だよ!? お兄の友達に!?」


「ななな、何か、文句、あん、の、かよっ!?」


 亜香里はあはは、と誤魔化すように笑って自室へと逃げ込んだ。


 くそう……書籍化したからって調子に乗ってねだられた布地買ってやったりするんじゃなかった。酷い妹である。


 俺も自室へと戻り、パソコンの電源を入れる。


 『没・落選』フォルダの中にある作品タイトルを確認して、作りたてホヤホヤの文芸部グループに投稿する。今まで使っていたのとは別のアプリで、静城先輩のススメで美華ともども登録したのだが、インスタントなクローズドチャットルームを作成する感じになるらしい。


 発言が後に残らないからスマホの容量を圧迫しないんだとか何だとか。ちなみにサクサク動く、を売りにしているだけあって早い。


 ユーザーネームが最大四文字とかドゴランクスエトかよ、と思わんでもないけどまぁ使えれば問題ないのだ。


なかむら:今チェックしました


なかむら:短編14、長編4出せます


なかむら:最短2000文字、最長55万文字です


弟のあね:印刷代金とんでもないことになるね……


なかむら:自分はどれでも良いので


なかむら:皆さんのページ数を見てから調整する感じで


なかむら:後で選ぼうと思います


おとうと:ありがとうございます


 早めにページ数を決めて費用を確定させておかないと、アイスや飲み物で賄うべき分が決められない。そうすると、単価や販売数も決められないのだ。


 だとすれば、ページ数ありきにして美華、静城先輩、遼太郎の作品で埋めて、残りを俺が埋める形にするのが一番楽だろう。


♡美華♡:メイド服ってどうなった? 聞けた?


なかむら:名前の存在感よ


♡美華♡:可愛いでしょ?


なかむら:ギャル感


なかむら:マ ヂ パ ナょ L丶


弟のあね:可愛い


おとうと:似合ってます


♡美華♡:中村がなんていってるか分かんない


♡美華♡:何語?


なかむら:マジか おれが少数派なのか


なかむら:ギャル語


♡美華♡:土下座か改名すべし ♡中村♡とかどう?


♂中村♀:これでどうだ


 思いつかなかったので適当な記号を入れてみたけれど、


弟のあね:(^▽^;)


おとうと:ちょっとよくわからないです


♡美華♡:もしかして:変態


 あんまり反応が芳しくないので話題を変えることにした。


なかむら:メイド服妹に聞いてみた


弟のあね:無かったことにしたね


なかむら:貸しても良いけどその前に会いたいって


♡美華♡:秒で名前戻したね


なかむら:普通の服より採寸するところが多いらしいよ


♡美華♡:じゃあ中村のオタク訪問?


なかむら:お宅な。誤字の悪意よ


おとうと:ルポワールのバックヤード借りますか


弟のあね:どっちの方が妹さんの負担少なくなるかな?


 お互い自室で面倒だったのメッセージで聞いたところ、『せっかくだから行く。移動費はお兄持ちで』とのことだったので『ルポワール』に連れていくことにする。


 とはいえ亜香里は中学生で受験生だ。


 学校帰りにわざわざ電車移動させてまで『ルポワール』に呼びつけるのも良くないと判断して休日の午後に設定する。


 これならば亜香里も勉強の気分転換って感じにできるだろうし、遅い時間にならずに済む。


なかむら:というわけで土曜日にお願いします><


おとうと:了解です。叔父さんにお願いしときます


弟のあね:まぁ断られることはないから安心して良いよ


♡美華♡:採寸ってどのレベル?


なかむら:?


♡美華♡:脱ぐ?


 びっくりして再び妹にメッセージを送ると、今度は画像が返ってきた。


 どうやらコスプレ衣装の作成に係る採寸関係の注意書きをまとめたものらしい。ああうん、知己のレイヤーさんにお願いされて時々引き受けてるもんな、亜香里。


なかむら:妹からです


弟のあね:えっ、ホントに?


♡美華♡:本格的だねー


弟のあね:全裸って恥ずかしくない?


♡美華♡:水着のモデルやったとき経験あります


弟のあね:そっかー(´・ω・`)


おとうと:反応に困るから個別にやって欲しい


なかむら:同意


♡美華♡:ごめん


弟のあね:ごっめーん☆彡の


 送ったの俺だけどきちんと読めばよかった……素っ裸になるんか……。よくよく読んでみると、デザインによってはブラジャーを付けられないので洋服の方に補強を入れたり立体的に作ったりするんだとか。


 ……いや、メイド服だし要らなくないか!?


 思いついたは良いものの、この発言自体がセクハラになりかねないのでとりあえずは話題を変えることにした。


なかむら:妹におれが着るものと勘違いされて一度断られました


♡美華♡:もしかして:日頃の行い


なかむら:しかも拒絶じゃなくて諭す感じで止められた


弟のあね:兄の暴走を止めようとしたのか……出来た妹さんだね


おとうと:つらい


なかむら:女友達が着るって弁明したんだけど


なかむら:今度は女友達の存在を疑われた


♡美華♡:さすがにかわいそう


おとうと:つらい


弟のあね:・・・中村くんって妹さんからどう思われてるの?


なかむら:根暗陰キャぼっちオタク


♡美華♡:もしかして作家なの隠してたり?


なかむら:知ってる 書籍化したときお小遣いたかられた


おとうと:(´;ω;`)


弟のあね:(´・ω・`)


♡美華♡:(TwT。)


 何か憐れまれたけどまぁ良いか。


 適当にキリも良いので執筆に入ることにした。さて、今日はどこまで書けますかね、と。

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