オマケ

「んーっ」


 軟禁されていた部屋から出される。

 底辺作家と特定班は、それぞれ伸びをしたり、肩をグルグルと回しながら出口へと歩いていく。

 その前に立ち塞がる人物がいた。

 短い金髪に、インテリですと言わんばかりの眼鏡を掛けた男だ。


「おや、これはこれは」


 その男の姿に、底辺作家が楽しそうに口を開いた。


「自信満々の策で、被害を広げ、被害者を多数出してしまいましたね。

 どんな気持ちですか?」


 嫌味だった。

 底辺作家なりの嫌味だ。

 この金髪インテリ眼鏡のせいで、死ななくて良かった人間まで死んでしまった。

 失策の自覚が多少あるのだろう、憎々しげに男は底辺作家を睨みつけている。

 ちなみに特定班は、視界に入っていない。

 そのことがわかったので、特定班は何故か鼻をほじり始める。

 なぜなら視界に入っていないからだ。

 そして、鼻が異様にむずむずしたからだ。

 軟禁されていた部屋と通路の温度差のせいだろう、たぶん。


「これで勝ったと思うなよ」


 殺してやる。

 そんな副音声が聞こえたが、底辺作家は気にしない。

 特定班は、鼻をほじるのをやめた。

 くしゃみが出そうだったからだ。


「元々、勝負をしてるつもりは無かったんですけど。

 そうですか、貴方から見たら自分は勝ったんですね。

 そして、貴方は負けた、と」


 底辺作家からは嘲笑しか出てこなかった。

 言葉尻をとられ、そんな風に返されて、ますます金髪インテリ眼鏡は怒りを露わにする。


「~~っ!」


 拳を握りしめ、金髪インテリ眼鏡が底辺作家に掴みかかってくる。

 その横で、特定班がくしゃみをしようと大口を開けていた。

 しかし、金髪インテリ眼鏡の視界に、特定班は入っていない。

 なぜなら興味が無いからだ。

 そして、


「はっ、はっ、はっくしゅん!!」


 特定班のくしゃみと、金髪インテリ眼鏡が底辺作家に掴みかかろうと伸ばした腕が、どこからともなく現れた生き字引の手に掴まれるのは、ほぼ同時だった。


「…………」


「…………」


 生き字引と、金髪インテリ眼鏡がなんともいえない微妙な表情になる。

 なぜなら、特定班のくしゃみで二人の手に唾がかかったからだ。


「……おや、これはこれは。

 最優秀エージェント殿ではないですか」


 金髪インテリ眼鏡がそんなことを口にした。


「あ、続けるんだ」


「すごいな、唾が掛かったのに続けるんだ」


 底辺作家と特定班が、インテリ眼鏡に向かってそんなことを言った。


「お前、こいつに何をしようとした?」


 生き字引も構わず、そんなことを金髪インテリ眼鏡に問いかけた。


「さて、なんのことでしょう?」


 慇懃無礼な返しに、生き字引の手に力が入る。

 その横を、底辺作家がスタスタと通り抜けた。

 特定班が、鼻をすすりつつその後に続く。


「って!!」


「おい!!」


 底辺作家にそんな二人の声がかかった。

 特定班にはむけられていないので、ポケットからティッシュを出して、鼻をかむ。


「なに?」


 底辺作家が面倒くさそうに振り返った。

 特定班は、ゴミ箱を探してキョロキョロし出す。


「お前のことで、こうなってんだろ!!」


「無視するな!」


「だって面倒くさそうだし」


 そんな三人を横目に、特定班がゴミ箱を探してウロウロする。

 と、いい場所を見つけて特定班が、おもむろに金髪インテリ眼鏡に近寄って、上着のポケットに鼻をかんだティッシュをいれようとして、


「お前もお前でなにをやってるんだ!!」


 金髪インテリ眼鏡にゲンコツを食らっていた。

 その拍子に、生き字引の手が離れる。


「いや、ゴミ箱がなかったから」


「だからって、なんで俺のポケットにっ!」


「少なくとも、これだけの死者が出た原因作ったのお兄さんでしょ。

 役立たずじゃん。

 なら、俺のゴミ箱程度には役にたっても罰はあたらないと思うけど?」


「このっ」


 そんな特定班の首根っこを引っ掴んで、底辺作家が金髪インテリ眼鏡から引き離す。

 そして、絶対零度の視線を底辺作家は金髪インテリ眼鏡に向けた。


「郷に入っては郷に従え。

 この国にはこの国なりの、荒御魂の鎮方があります。

 俺は専門家ではないですけど、それでもこれだけは言えます。

 コミックにあるような正義のヒーローがやりたいなら、お国に帰った方が身のためですよ?


 この国には、少なくとも千年の積み重ねがありますから。

 あぁ、でも無理な話ですか。

 なにせ、あなたの御先祖達が作り上げてきた国は、そんな積み重ねのある部族を追い出し、開拓してきた歴史を持っている国でしたからね」


 最大の嫌味を向けて、それで満足したのか底辺作家が特定班を引きずって去っていく。

 その背を生き字引が追いかける。

 あとには、鬼の形相をした金髪インテリ眼鏡が残された。

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怪異に詳しいやつ、ちょっと来い ぺぱーみんと @dydlove

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