第3話 有希子のお母さんは警察嫌い

初めは有希子も緊張していたのか、何も言わなかったが、家に近づくにつれ、自分の家のことを話し始めた。


「あのね、私のお母さん、シンママで、トラックの運転手をしてて、生活が厳しいんだ。だから、家もボロボロなんだけど、笑わないでね」

「あのな、そんなことで笑うかよ。女手1つでお前を育ててるなんて、お前のお母さんはかっこいいな」

「……! うん! 私のお母さん、カッコいいの! えへへへ」


そんな話をしていると、有希子の住んでいるボロアパートが見えてきた。

ボロアパートの前には、仁王立ちをしている有希子の母の姿がある。


有希子は慌てて中川巡査の背中から降りて、母親の元に駆けていく。


「お母さん!」

「有希子、門限過ぎているわよ」


有希子の母親は中川巡査には目もくれず、有希子に向かってそう言う。

中川巡査は、2人の間に入った。


「お母さん落ち着いてください。娘さんは暴漢に襲われていたんです。この前も……」

「この前って何?」

「え?」


中川巡査は驚いて有希子を見る。

有希子は気まずそうな顔をしていた。


「この前のこと、話してないの?」

「だって……」


有希子がモジモジとしていると、有希子の母親はおもむろに有希子の頬をビンタした。


「そんな短いスカートをはいて、男を誘うような恰好をしているからだよ! これに懲りたら、服装を正しなさい」

「……はい、ごめんなさい」


有希子が謝ると、有希子の母親は中川巡査を睨みつける。


「私はね、ケーサツなんて信用してないし大嫌いなんだ。さ、帰った帰った」


そう言われてしまっては、中川巡査は帰るしかない。

ちらりと有希子を見たが、彼女は下を向いたままだった。

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