2人目の聖女は大迷惑


 その頃、バンベルク大主教館では……


「バンベルク大主教、この娘は偽物ではないのか?」

「しかし猊下、たしかに加護に『聖女』とありますが……」


「加護に『聖女』とあってもだ!『聖女』は先頃、神殿として公式に認定した、貴方も知っておるはず」

「2人目が現れたとしても、認めるわけにはいかぬ、神殿の『聖女』は1人と決まっている」

「だから間違いとするしかない、まだ公表していないのであろう?」


「まだ公表はしておりません」


「よろしい、バンベルク大主教が娘の加護をみて、そこに『聖女』とあったのだから、本物だろうと思うが、認められないのだ」

「従って公式に会うわけにはいかない」


「ではどうされるのですか?」


「少なくとも加護を持っている娘、事情を話して、この神殿の教義を受け入れない地域に移っていただく」


 朝、夜が明ける前に、訪問者が来られたのです。


「朝早くに申し訳ない、エマ様にお会いしたい」


 バンベルク大主教と教皇猊下でした。


「大変、申し訳ないが、この町を退去していただきたい……」

「理由をお聞きしても?」


 ……


「わかりました、私どもは出て行きましょう、行き先はベネット王国でよろしいですか?」


 ベネット王国とは、このゴトーネース帝国の更に南、神殿と同じ神を信仰している王国ですが、教義が違うのです。


 バンベルクから南下する街道を、今日を含めて5日ほど行くと国境です。


「1つお願いがあるのですが、商業許可証と身分証、古くていいので馬車を1台、それと従者の為の武具を頂けませんか?」

「あと、奴隷であるフレイヤを解放したいのですが?」

「構いませんよ、奴隷証書はこちらで破棄いたしましょう」


「通行証と身分証は私達の名の下に発行しよう、馬車と武具は、古くて悪いが、分団のものを差し上げよう、また少ないが当座の資金として、10,000ランドお渡しする」

「そんなに沢山は……」


 ここで教皇猊下が、


「聖女様には、神殿に含むことがないようにと、せめてもの謝罪として、お受け取り下さい」

「わかりました、この世界、神殿、バンベルクに神のご加護があらんことを」


 何かこの町を覆う空気が変わったような……


 お2人はそそくさとお帰りになられました。


「クロエ、フレイヤ、私たちはバンベルクというより、神殿の勢力範囲から追放となりました、南の『ベネット王国』へ向かいます」

「わかりました」


「理由は聞かないのですか?」

「エマ様がおっしゃる以上、私は従うだけです」

「このフレイヤも、ご主人様についていくだけです」

 

「悪いね、ここでゴネると、暗殺されかねませんからね、条件を呑んでいただいたので良しとしましょう」

「荷物は全て私の『収納』にいれます、馬車とフレイヤの武具は古い物が頂けるようですから、フレイヤは馭者をお願いします」


 しばらくすると、ディオン様がやって来ました。


「ヨハン大主教猊下の謝罪を受け入れて頂きたい」

「謝ることはありません、私は大主教猊下には感謝しかございません、短い間でしたが、私の感謝をお伝えください」

「当座の資金10,000ランドです、あとこれを……」


 旅の服装です。


「神殿の女神官の旅装一式です、この世界では何処に行ってもありふれた服装です、旅の女商人あたりも良く着ております」


「こちらは教皇領発行の商業許可証です、こちらはバンベルク大主教領発行の身分証です、それとヨハン大主教猊下のご親友であられる、ベネット王国宰相への紹介状です」

「この商業許可証があれば、旅の商人として、また神殿教区内なら各地での領主やギルドで断りをいれれば、露天商売が出来る事になっています」

「ベネット王国宰相へこの紹介状を提出していただければ、少なくともベネット王国発行の商業許可証が発行されるはずです」


「もうすぐハンス分団長が約束の馬車と武具を持ってくるでしょう」


 そんな話しをしているときに、ハンス分団長が約束の馬車と武具を持ってきました。

 フレイヤさんが、受け取っています。


「急な旅立ちと聞きました、残念です」

「申し訳ありません、皆様には美味しい物を沢山食べて欲しかったです」


「ところで何がこの馬車をひくのですか?」

「『回転車輪』魔法で動かします」

「あの護衛の女奴隷ですか、ああ、たしか使えますね」


「では、これでお別れですね、ヨハン大主教猊下に、宜しくおっしゃっておいてください」

「ディオン様もハンス分団長様も、短い間でしたが、ありがとうございました、出来ましたら、またお会いいたしたいものですね」


 こうして、夜明け前に、お2人に見送られてバンベルクを後にしたのです。

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