第一幕・天使爆誕(前編-03)
製鉄所を見下ろす小高い丘から双眼鏡で辺りを見回すヤミ。
「あれぇ! おっかしいなぁ」
「ヤミ、どうした?」
「だって、ほら見てよぉ」
ヤミから双眼鏡を渡された紅蘭が港を見回す。
「湾内は、〈墨海艦隊〉の艦船ばかりか。まぁ、当然だが」
紅蘭が未羽に双眼鏡を渡した。
「確かに、おかしい」
「そうだよねぇ。ねっ! ねっ!」
「何が、おかしいんだ? 未羽?」
「ここは、観光漁船がかなり多かった筈だ。前に来た時はな」
「そうそう、ソレなんだよねぇ」
「戦時中だ。観光漁船が動くとは思えんが?」
「いや、ソレが違うんだよ。紅蘭ちゃん」
「どう違う?」
「ここの観光漁船を隠れ蓑にして諜報活動をする国が多いから、嵐でも起きない限り沢山の船が出てる筈なんだよぉ」
「つまり、そのうちの1隻を利用して海から製鉄所に入ろうとしていた訳だな」
「うわっちゃぁ、バレたかぁ」
「お前が何の見込みも無く動く訳は無いと思っていたが」
呆れ顔になる紅蘭。
「んじゃ、何で観光漁船が出てないのか海岸線の街で聞いてみようか」
「さて、誰が聞きに行く?」
紅蘭と未羽2人の視線が、同時にヤミへと向けられた。
「勿論、3人一緒にっ! だってぇ、ボク達〈チャリーンズ・エンジェル〉じゃん!」
満面の笑みを浮かべるヤミであった。
翌日・聞き込みを終えたヤミ達――
「えーっと、話を纏めるよぉ。未羽ちゃんから!」
「ナットウポリの観光漁船は、諜報活動に利用される為に戦時中であっても特別扱いされていた」
「次、紅蘭ちゃん!」
「ところが、先月になってある会社の漁船が沈没寸前となってしまった」
「はい、未羽ちゃん!」
「問題になった会社は、〈カスーワ・ボート〉。〈ダ・カツーラ〉社長の対応が悪すぎたと言う事だったな」
「ふむふむ、これで解決策が見えて来たよぉ」
「ん?」
「未羽ちゃんに聞くけど、事故が起きた時に会社が絶対にしなくちゃいけない事は?」
「真摯に侘びる態度を見せる」
「では、紅蘭ちゃん。ダ・カツーラ社長はどうだった?」
「説明会はしたが、派手なネクタイをして脚を組んで椅子に座っていたな」
「だから、皆から見離されちゃった訳。だから、ボク達で真摯な態度を作ってあげてぇ」
「ドサクサに紛れて出した船で」
「製鉄所に侵入する」
「そう言う事。まぁ、皆だって諜報活動+漁もしなくちゃいけないんだから、きっかけさえ有れば上手く行くって!」
「そう上手く行くか?」
懐疑的な目を見せる未羽。
「だが、そんな仕事を何故か成功させるのがコイツだ。だから、あの方も」
「あの方? カロロスとの話の時にも聞いたが、そいつは何者だ?」
紅蘭の話に未羽が反応した。
「まぁ、そんな事は放っておいて。今から、ダ・カツーラ社長に会いに行くよぉ!」
「おい、待てっ!」
「ヤミ!」
キャハハッと笑いながら飛び出していくヤミを追いかける紅蘭と未羽であった。
「ふ~ん。ここかぁ」
岸壁近くにあるこじんまりとした建屋を見上げるヤミ達3人。
「〈カスーワ・ボート〉・・・。おい、アレを見ろっ!」
紅蘭が屋根の上に付けられた無線のアンテナを指差した。
「折れているな」
「ほぉ、あのアンテナは? 未羽ちゃん?」
「船との連絡用の無線だろうが、アレでは使い物にならん」
「ワタシは船には詳しく無いが、あまり良い環境では無さそうだな」
紅蘭は岸壁に係留された船を指差す。
「確かに、アレでは事故が起きるのも致し方無い」
未羽も船会社の杜撰な管理さに辟易している様だ。
「だからこそ、利用価値があるんじゃんかぁ! さぁ、行っくよぉ!」
ニッカリと笑うヤミを先頭に〈カスーワ・ボート〉のドアが開けられた。
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