第一幕・天使爆誕(前編-04)
「ごめん下さーい!」
「何だ、お前ら?」
「えーっと、社長さんですかぁ?」
事務所らしき室内で机に脚を上げてふんぞり返っている小太りな壮年男性に、話しかけるヤミ。
「そうだよ。お前ら、もしかして。また、マスコミかっ?」
「うーん、残念。ちょっと、社長さんにお願いがあってねぇ」
「お願いぃ?」
胡散臭そうにかつ、面倒臭そうにヤミ達を見る社長。
「そう、船を出して欲しいんだ」
「あ~、無理無理。今はどんなに金を積まれても無理!」
「どーしてぇ?」
「お前、テレビとか新聞とか見てねぇのかよ。おい、後ろのお姉ちゃん達も何か言ってやれよ!」
社長は紅蘭と未羽をじっと見る。
「ダ・カツーラ社長!」
未羽の声が事務所に響いた。
「な、何だよ。脅したって無駄だからな」
嘯いて背中を向ける社長。
「あの事故で腐ってしまうのは分からなくは無いが、やり方がマズ過ぎる」
「おい、お前ら! いきなり押しかけて来て説教かぁ? 小娘が、いい度胸じゃねーか!」
「まぁ、待て。ワタシ達は炎上した問題を解決しに来たんだ」
「えっ! マジ?」
社長の顔に一瞬だが、笑みが戻った。
「先ずは、改めて会見を開いて貰う」
「もう何度もやってるよ!」
「あのやり方では、纏まる話も纏まらない!」
「ぐっ! で、でも俺は悪く無いし・・・。あれは、船長が勝手に・・・」
バーンッ!
社長が話し終わる前に、ヤミが机を大きく叩き、啖呵を切る。
「んな事、いつまでもグチャグチャ言ってんじゃねーよ! ちったぁ、黙れっ! この、タコがっ! 何なら永遠にその口、塞いでやってもいいんだぜっ!」
「は・・・、はい」
ヤミの急変ぶりに委縮する社長。
「会見ってのはなぁ、パフォーマンスなんだよ! これからこちらの未羽姐さんが有難ぁい、謝罪スタイルを教えて下さるから、しっかりと勉強しやがれっ!」
「はい・・・。宜しくお願いします・・・」
「って、言う事だから未羽ちゃん宜しくね~。ボク達は会見の準備っと、紅蘭ちゃーん手伝ってよぉ」
コロリといつものヤミに戻ったのを見て、紅蘭も思わず笑みを零す。
「さぁーて、後は未羽ちゃん! 頼んだよぉ」
ヤミの笑顔は果たして何を意味していたのであろうか。
数時間後――
「こちら、〈カスーワ・ボート〉の会社前です」
「ダ・カツーラ社長が緊急会見を開くと言うことです」
社前に各国の報道陣が詰めかけている。
「そろそろ、時間だねぇ」
「始めるか?」
「未羽ちゃん、準備は?」
「多少、手こずったが大丈夫だ」
「じゃ、始めようかぁ。お集まりの皆さぁ~ん!」
ヤミの声で騒めいていた報道陣が一瞬、静かになった。
「〈カスーワ・ボート〉、ダ・カツーラ社長の会見を始めまぁーす! それでは、社長、どおぞぉ!」
ザワザワ ザワザワ
ヤミの紹介で現れた〈ダ・カツーラ社長〉の姿を見て、報道陣が騒めいた。
「おい! 見ろよっ?」
「ははっ! 嘘だろっ!」
「オー! アンビリーバボー!」
社前に現れた社長は頭髪が無い、つまり坊主頭である上に眉毛まで剃られていた。
「未羽ちゃん、ちょっとやり過ぎじゃないのぉ」
「いや、あれくらいやった方がインパクトがある」
「確かに、そうだな」
そう言って、笑い転げる3人。
これ以上は無いと言うインパクトとともに登場した社長。
報道陣が黙って見守る中、歩を進め皆の前に来ると――
「この度は、申し訳ありませんでしたぁっ!」
そう叫ぶと、そのまま土下座したのである。
「OH! これが日本の究極謝罪奥義!」
「ジャパニーズ・〈DOGEZA〉!」
ヤミと紅蘭は目を輝かせて見つめている。
しかも、ヤミは用意周到に社前を一度掘り返した後、ご丁寧に水まで撒いていたのである。
「本当に、すびばぜんでしたぁ!」
泥と砂、涙と泥水の中で顔を埋め続ける社長の姿は全世界に配信され、観光漁船の運行は再開されたのである。
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