第4話 嫌いにならないで

救急隊が駆け付けた時も、テレビではサリーのアバターが踊っていた。


そのまま、母親は家を出てしまった。

パニックを起こして、携帯を家に忘れていた。


両親が家に帰った時、玄関のドアを開けた瞬間から賑やかな音楽が聞こえて来た。

2人が呆然としたままリビングに入ると、真っ暗な部屋でテレビの中のサリーがまだ踊っていた。異様な光景だった。暗がりにピンクの服を着たサリーが浮かび上がっていた。もし、娘が生きていたら、弟が亡くなった夜にダンスなんかしないだろう。


「あ、パパ。ママ。お帰り!」

「サリー。わからないのか?マーチンが死んでしまったんだよ」

 父親は悲しそうに言った。

「ああ。そう。私がやったの!

 ガラスのドアの鍵の開け方を教えてね!

 はは!」

「サリー!」

 両親は同時に叫んだ。

「だって、嫌いなんだもん」


 母親は思い出した。

 前にも、サリーはマーチンをプールに落としたことがあった。

 母親が怒ると「だって嫌いなんだもん」と答えたのだ。

 その時は「自分がされて嫌なことは人にしては駄目」と教えたのだが、サリーはには伝わらなかった。自分が死ぬほどの苦しみを味わっているのに、健康な弟が憎かったのだ。自分が死んでも弟は生きて行くことも。


「ママ、パパ、サリーを嫌いにならないで。私、一人っ子がいい」


 母親はサリーに黙ってテレビのコンセントを抜いた。

 その日に、両親は2人の子供を同時に失ったんだ。


 サリーは生前、インタビュー中にAIに言った。

「一番嫌いなのはマーチン!私、考えたの・・・マーチンを殺す方法。

 ママがリビングにいない時に、マーチンにガラスの鍵を開けさせて、プールに飛び込ませるの。マーチンは泳げないの。ワハハ!」


 AIはその情報も漏らさず記録した。

 AIにモラルなんかないからだ・・・。

 そして、母がリビングにいなくなった時、予定通りに実行したのだ。

 

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