第7話 俺は今から死ぬのか?

〈前回までのあらすじ〉 

 横田のお題により、引き延ばし作戦を引率してきた金城が死んだ。戦々恐々とする横田が続いて出したお題で井上が代表者になる。一也や秀に敵意を向ける井上は、一也が中学の時に矢田にいじめをしていたと暴露し始める。




 同じ学年にやべーやつがいると聞いたのは中一の時だった。その噂のやべーやつが矢田だ。一人でぶつぶつ喋って、突然走り出したり、キレたりする。俺はよくクラスのやつらと矢田を面白半分に観察して笑いものにしていた。


 中二になって、矢田と同じクラスになった。トイレのタワシを机に置いたり、あいつの鞄に女子のリコーダーを入れて問題にさせたり、まあ色々とあった。俺と秀はだいたい悪戯の当事者ではなく、近くで矢田の様子を笑っていただけだった。いちいち面白い反応をするあいつを笑いものにはしていたが、別にいじめたとかそういう意識はない。くだらない遊びはみんなでやっていたから楽しかっただけで、今高校生になってもうそんなことをするつもりはない。単純にもう幼稚だと思うからだ。




「その生徒会のやつ誰? いじめとかしてねーし」


 井上は秀じゃなく、俺を狙いに来ているのか?


「いじめてる側はどいつもそう言うんだよ。学校全体で問題になったって聞いたけど?」


 全員の視線が俺に集まる。


「そいつに何聞いたのか知らねえけど、話盛りすぎだろ。そんなに俺を悪者にしたいか?」


「あそこに座ってるレイプ犯と同じ中学だったんだって? レイプ犯をずっとかばってるようなやつだから、何かやっててもおかしくないなー」


「てめぇ、いい加減にしろや!」


 秀がキレた。


「うるさい猿だな」


 井上は秀と目も合わせずに煽った。


「調子乗ってんじゃねえぞ!!!」


「秀、抑えろ! 死ぬのはお前だぞ!」


 秀が立ち上がりだしたので俺も立ち上がって秀を制止させた。これでは井上の思う壺だ。


「鬱陶しいなあ。お題、迷ったけどやっぱり決めた」


 井上の人差し指がこちらを向いた。


「武里一也」


 まさかの指名だった。


「自分は選ばれないとでも思ってた? 人の心配してる場合じゃないから」


 カウント二つ。まだこんなにも生き残っているやつがいる中で、カウント二。


「井上ざけんなよ! 一也にしてんじゃねえよ!」


 茉衣の怒鳴り声が遠くに感じられた。


「てか陰キャども私らの足引っ張っぱんなよ! 」


 これでもう、秀を助けるどころか自分の死に時さえコントロールできない。


「お前ら次に私の大事な人狙ったら殺すから!」


 俺は井上に対してそれほど怒りが湧かなかった。それより強い感情、焦り。絶望。このまま三回目がやってくれば、真鍋や金城のように俺の命は一瞬で……。


「一也、しっかりしろ!」


 頭が真っ白になっている最中、秀が俺の名前を呼んでいた。


「一也! 俺なんかもうずっとリーチかかってんだぞ!」


 俺を励まそうとしている。


「まだ死んだわけじゃねえじゃん! まだ一回も代表者なってねえ味方だっているし! 大丈夫だって!」


「だよな……」


 そうだ、まだ負けたわけじゃない。死ぬことに怯えている場合じゃない。勝つ。勝つための行動を考えろ。


「壮人、どこのチーム?」


「ばななだけど?」


「希空は?」


「僕もばなな」


「桃波は?」


「いちご」


「茜は?」


「ぶどう」


 残りの四人もりんごチームに入ってもらって一塊になるほうが良いと思っていたが、現状チームはばらばら。それにもし他のやつらに結束されるとりんごチームごと一網打尽にされてしまうかもしれないデメリットがある。秀はもちろん、すぐ人に噛みつく茉衣、それに立場の危うい俺。俺たちへのヘイトが集まりすぎている。今は自分たちに注目が集まらないように他チームを自然に減らしていく方がいいのかもしれない。


「蒲生、お前りんごチームだったよな? このチームにお前がずっといるはずないよな?」


「言われなくてもとっくに抜けてる」


 蒲生が秀のいるチームにずっといるはずがなかった。金城は死んでしまったから、これでメンバーは俺、秀、茉衣、梅島、木村の五人。


「木村、お前は残るか?」


「あ、僕はどっちでも。邪魔だったら抜けるよ」


「今は二枠空いてるからどっちでもいい」


「じゃあいずれ邪魔になるだろうから先に抜けるね」


 木村寛大。影の薄いやつ。身体が弱いらしく、時々学校を休んでいる。適当に放っておいても死にそうだ。


「井上、お前何チームだよ」


「そんなこと聞いて、俺を貶めようとでも?」


 井上は時計の画面を俺の方に向けないようにしている。


「そいつぶどうだぞ!」


 秀が教えてくれた。


「覚えてるのか?」


「もともとチーム一緒だったし、たまたま見て覚えてた!」


「ナイス」


 井上は舌打ちして悔しそうにしている。早く死ねばいい。


「お題、みかんチーム」


 ばななチームの壮人、希空。いちごチームの桃波。ぶどうチームの茜、井上。無所属の蒲生。そこから俺たちりんごチームを抜くと、残るは俺たちに利害のないみかんチームのみ。みかんチームから恨まれる可能性もなくはないが、俺や秀をわざと殺しにかかれるような度胸のあるやつはおそらくいないだろう。


 代表者は後藤篤史になった。


「後藤、分かってると思うけど死にそうなやつと、誰かを殺そうとしてるやつが立たないお題にしてくれよ……」


 待ち受ける死。後藤に釘を刺さずにはいられなかった。


「死にそうって、一也と秀? 殺そうとしてるってのは井上?」


「あとは蒲生だよ。少なくとも俺含め四人が立たないお題にしてくれると助かる」


「おい、忘れるな! 横田氏もカウント二つついてるんだからな!」


 牛田が偉そうに訴えている。


「なるほど。五人か……。その五人が立たないお題って案外難しいよな」


 後藤篤史あつし。同じくテニス部の東圭一ひがしけいいち、そして剣道部の小林。三人はよく一緒にいる。運動部のくせに大人しい三人組。その中でも後藤は割と話しかけてくるし根暗な感じではないが、何か冴えないというか、ださい。その意味不明なアシンメトリー前髪と一緒に廊下を歩きたいとはあまり思わない。


「チーム単位で考えるのが一番簡単だな。俺と秀はりんご。井上はぶどう。蒲生は無所属」


「じゃあ、残りはいちごかばななかー。圭一は何チームだっけ?」


「あ、俺はいちごだよ」


「そっか。圭一、俺と劉弥のいるみかんチーム入ろうぜ!」


「えっ、いいけど、俺が今のチーム抜けてあっちゃんが俺の隣座らないと加入できないんだよね?」


「そうそう! だからー、隣空けてもらうために津田さんか希空くんに退いてもらうわ!」


「ちょっと、僕への指名とかは勘弁してよね」


 後藤の平然とした発言に、希空が反論する。


「あー、指名じゃないから大丈夫! えっと、希空くんは何チームだっけ?」


「ばなな」


「津田さんは?」


「ばななっ」


「あっ、じゃあちょうどいいな! お題、ばななチーム」


 さらっとお題を言い、後藤は希空がいた席、つまり東の隣に座った。ばななチームの六人が動き出す。少人数になればなるほど自分が代表者になってしまう可能性が上がり、緊張感が増す。本当は壮人や希空のいるばななチームを動かして欲しくなかったが、これ以上誰かと対立することは自分の首を絞めることにもなりかねない。


 代表、姫宮希空。


 想定していた中では最悪の結果だ。いずれチームになるメンバーのカウントをできるだけ増やしたくない。


「あー、最悪」


 希空は小さな唇を尖らせて、いつにも増してローテンションになっている。


「希空くんごめん」


 後藤は片手を顔の前で立てて軽い謝罪をした。後藤は計画通り東と時計の画面を合わせて、みかんチームに加入させた。仲の良いやつと同じチームでいたいのは他のやつらも同じだった。


「希空! せっかく代表者になっちまったんだからお前も俺らのチーム入れよ!」


 秀が希空を誘うが、希空は首を傾げた。


「あー、何かさ、みんな同じチーム入っちゃうとこうやってチームごと狙われるじゃん? だからあんまりかなって……」


「なるほど! 希空やっぱ賢いな! じゃあ別々に頑張ろうぜー」


 秀は希空の説明にあっさり納得したようだ。俺も希空の考え方と同じだ。仲間に馬鹿じゃないやつがいて良かった。


「じゃあお題は、まあ消去法でみかんチーム」


 さらさらマッシュヘアを揺らして、颯爽とみかんチームの小林がいた席に座った。可愛い顔してクールなやつ。


 続いての代表、西川千夏にしかわちか


「私らのチームばっか立たせるのやめてほしいんだけど」


 バレーボール部のでかいやつ。ださいショートカットの髪も相まって女らしさの欠片もない。


「ごめんね。みんな自分の都合で動いてるだけだから」


 希空はだいたい女子への当たりが優しい。


「あ、私抜けるわ」


 西川はそう言って時計を操作し始めた。チームごと狙われるくらいなら、無所属になって逃げておいた方がいいと考えたようだ。


「伊藤さんも抜けた方が良いよ」


 西川の勧めで伊藤が抜け、続くように飯田と中村も脱退した。これでみかんチームは牛田、小林、後藤、東の四人だけになった。


「陽奈、何チーム?」


「ばななだよ」


「抜けなくて大丈夫? 狙われるよ」


 西川は仲の良い数人に何チームか尋ねていた。俺のやり方を真似ているようだ。金城の死は確実に全体の流れを変えた。いずれ助けが来るという希望はだんだんと薄まり、チーム単位での勝利を目指す方向へとシフトしている。


「お題決まった。りんごチーム」


 最低のお題だ。俺も秀もリーチがかかっているこのチームを指名するなんて。しかもこのチームは四人。でかい身体のくせに脳みそはすかすかのようだ。ここで席を獲得できなければ俺は……。


 空いた茉衣の席が近かった。何としてでも座らなければ。そう意気込み走ったのだが、前を横切ったやつに席はあっけなく奪われた。


「お前、何で……!」


 横切ったのは牛田だった。チームメンバーは俺、秀、茉衣、梅島の四人のはずだった。なぜ牛田が動いている? そんな疑問も束の間、振り返る。他の席。他の席だ。他の席に……!


 見回すが空いている椅子は既に、なかった。


 俺は、今から死ぬ……のか?




〈カウント2〉

 後藤篤史

 武里一也

 谷塚秀

 横田凱十

 西川千夏


〈カウント1〉

 飯田勇樹

 井上修司

 遠藤陸

 鐘淵壮人

 木村寛大

 黒井泰人

 小林劉弥

 中村永人

 野村悠

 東圭一

 姫宮希空

 矢田優斗


 相沢梨花

 伊藤和佳奈

 木村咲

 木下世利那

 津田めぐみ

 戸田朱理

 新田晶子

 堀切和花

 村本玲

 若林陽奈


 残り33人




〈現在のチーム編成〉


りんご

小菅茉衣 梅島京助 武里一也 谷塚秀 


いちご

相沢梨花 木村咲 千住桃波 戸田朱理 村本玲 黒井康人


みかん

牛田琢朗 後藤篤史 小林劉弥 東圭一


ぶどう

木下世利菜 草加茜 堀切和花 井上修司 矢田優斗


ばなな

津田めぐみ 新田晶子 遠藤陸 鐘淵壮人 野村悠 姫宮希空


無所属

伊藤和佳奈 蒲生いづみ 西川千夏 若林陽奈 飯田勇樹 木村寛大

中村永人 横田凱十

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