第11話 適性検査

 一年半前のあの時、煌びやかで格好よく憧れのように感じていた協会へと足を踏み入れる。

 前回とは違う。肩を並べて歩ける感覚に感動を覚える。


「いつ来ても凄いですね」


 以前と人の量は変わらず、そして師匠に向けられる視線も変わらない。


「直に慣れるよ」


 そう言うと師匠は受付へと歩み始めた。

 それに置いて行かれいよう、歩く速度を合わせて付いて行く。


「こんにちは」

「こんにちは、魔術師様。今日はどのようなご用件で?」

「弟子の魔導士登録をしたいんだけど、できるかな?」

「はい。魔導士登録の手続きですね。少々お待ちください」


 そう言うと受付の女性は、準備をしに奥へと行ってしまった。


「魔導士の登録って、具体的にはどうするんですか?」

 いくら魔術師である師匠の紹介と言えど、実力も測らずに魔導士の登録ができるとは思えない。


「今、準備しているのは検査だね」

「検査ですか?」


 試験の間違いではなく?


「うん。得意不得意の魔術傾向、魔術的技術力などを測るんだよ」

「魔術の得意不得意って分かるものなんですか?」

「検査用の特別な石があってね。ある程度、魔術を修めた者には少なからず、癖や傾向が現れるものだから。それらを総合的に判断して得意不得意を判断しているらしい」

「へぇー」


 便利だなぁと思っていると、受付の女性が戻ってきた。


「お待たせしました。それでは案内致します」

「それじゃあ、いってらっしゃい」

「行ってきます」


 師匠とは一旦別れ、受付の女性に付いて行く。

 受付の女性を先頭に階段を上り、二階の一室に案内された。


「こちらになります」


 部屋に入ると机に並べられた、赤、青、緑、茶色の石が目に入る。


「あれが……」


 師匠の言っていた検査石。

 色は魔術の属性に対応しているのだろうか。


「それでは早速、検査を行っていきます。お名前は?」


 女性はそう言うと、机の方へと寄ってから尋ねてきた。


「テオです」

「テオ様ですね。では右から順に石を触ってマナを流していってください」

「え? あ、わ、わかりました」


 魔術の傾向を検査するのだから、当然と言えば当然だが。石にマナを流すという行為自体、初めてな為少し戸惑ってしまった。


「こうかな?」


 赤みがかった石に触れマナを流す。

 すると赤みがかった石が薄く発光した。


「うわっ」


 マナを流すと発光するのか。

 事前の説明不足に少し戸惑っていると、女性から声が掛かる。


「次の石にお願いします」

「分かりました」


 次は青みがかった石に手を当て、マナを流し込んでいく。

 すると少し青色を帯びた光が石から放たれた。


「次です」


 淡々と告げる女性に従い、次の石へと移動する。


「なんか……」


 並べられた緑がかった石と茶色がかった石を見て、ふと思う。

 苔と排出物みたいだな……。


「……触りたくなくなってきた」

「どうかしましたか?」


 なぜか躊躇っている僕を見てか、不思議そうに尋ねてきた。


「い、いや。なんでもないです……」

「そうですか」


 これ以上、女性に心配されるのも困るので早く触って終わらせる。

 心理的に楽な緑から触り、マナを流し込んでいく。

 すると濃い緑色を帯びた光が激しく放たれていた。


「おぉ……!」


 赤と青の時とは明らかに違う光り方に、思わず声が漏れ出る。


 これはいいのではないか?


 思えば最初に教わった魔術も風属性の魔術だった。

 そんな感慨に耽っていると、水を差すように淡々と告げられる。


「次です」

「……」


 促されるまま茶色がかった石に触れて、マナを流していく。

 茶色ということは、地属性の魔術だろうか。地属性魔術にはお世話になった記憶しかない。


 そんなことを思いながら、マナを流していると、


「あれ? えっ……?」


 光るはずの石が光らない。

 光るどころか焦げ茶色、下手をすれば黒になりかけているこの状況はどういうことなのか。


 事前説明がなかったせいで、この反応がなんなのか一切分からない。

 助けを乞うように、女性を見ると、


「なっ……!」


 淡々としていた女性は立ち上がり、驚きの表情を浮かべていた。


「え、これってどういう状況なんですか?」


 良くないことなのか、良いことなのか。それだけでも教えて欲しい。


「……いえ、失礼しました。気にしないでください。では、次の検査を行います」


 女性は取り繕い、あくまで何もなかったと。淡々と検査を再開させる。


「えーー」


 何も教えられないという現状に、不安ばかりが募っていく。


「ではこちらの石に触れて、奥に二つある石へとマナを流してください」


 手前に一つ、奥に二つ、並べられた石を指して女性は説明する。


「繋がってるようには見えないですけど、できるんですか?」


 マナを流すにしても、伝えるための媒体が必要だ。

 石と石に間が空いているとできないと思うのだが。


「はい。可能です」


 女性は躊躇う事なく断言する。


「そうですか。わかりました」


 できるのであれば、やるしかないだろう。


 一年半前、苦戦していた試験を思い出す。

 あの時の経験が今、活きるとは。

 師匠に感謝しながら、マナを流していく。


 すると奥に並んだ二つの石が同時に同じような反応を示した。

 その反応を見届け、女性は僕へと告げる。


「では次の検査に移ります。ついて来てください」


 一体どれだけ検査するのだろうか……。

--- ---


「はい。これにて検査は終わりです。お疲れ様でした」


 開始から一時間以上が経ち、ようやく検査から解放された。


「ありがとうございました」

「検査の結果は後日、改めて通達致します」


 結局、検査内容を詳しく説明されることはなく部屋を出る。


「なんだったんだ……」


 そんなことをぼやきつつ、階段を降りていく。

 すると、一階の方から怒声が聞こえてきた。


「あぁ! ムカつく! 表に出ろ!!」

「いいよ、君の勝ちで。充分、君は凄い」


 もう一人は聞き覚えのある声。というか師匠の声だった。


「そこがムカつくんだよ!」

「めんどくさい奴だな。君は……」


 そんなやり取りを聞きながら一階へと降りると、物凄い剣幕で男が師匠に迫っていた。

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