第9話 呼び出し

 後日、先日の王都防衛の報酬を受け取るために王城へと足を運んでいた。


「どうして呼ばれたんでしょうか?」


 報酬の受け渡しだけなら、他にも手段はあっただろうに。


「炎王が直接呼んだ。なら、他にも理由はあるはずだよ。

 それが何かは知らないけどね」


 師匠は行けば分かると言うが、他にも気になる事があった。


「師匠とアイザックさんってどういう関係なんですか?」


 先日から見せる師匠の炎王に対する謎の信頼。

 旧知の仲であることは分かるが。一国の王とどういう関係なのだろうか。


「ザックとは。そうだね、旅仲間と言った所かな。

 二、三年ほど一緒に旅をしたんだ」

「旅ですか。でもアイザックさんて王様ですよね?」


 国王が国を置いて旅などしていて良いのだろうか。


「旅自体は七、八年も前だからね。ザックが戴冠するまでには国に戻ったよ」

「なるほど」


 近衛兵に案内されながら、師匠とそんな話をしていると目的地に到着した。


「ヴァレリア様、テオ様をお連れしました」

「……入れ」


 近衛兵の声に少し遅れて、炎王の返事が室内から聞こえてきた。


「失礼します」


 近衛兵が扉を開け、僕たちは中に案内される。


「来たな」


 応接室に入ると、そう言って炎王が椅子から立ち上がりもてなした。


「数日ぶりだねザック。調子はどうだい?」

「相変わらずだな、ヴァレリア。調子はいいが、気分は最悪だ」

「それは、今日呼び出した理由と関係があるのかな?」

「嫌な所で察しがいいな。そうだ。まぁ、座れ」


 険悪な雰囲気になりそうな予感を残しつつ、向かい合う形で席に着いた。


「今日、呼び出した理由は三つ。一つ目が、先日の報酬金だ」


 そう言って炎王はお金の入った皮袋を取り出した。


「中には金貨十八枚と銀貨七枚が入っている」

「金貨十八枚!?」


 金貨一枚だけでも、一人なら一ヶ月近くは生活ができる。

 それが十八枚も。二人で分割しても半年以上は生活に安定が生まれることになる。


 余裕ある生活がようやく……。

 そんな感慨に浸かっていると、


「どうぞ」


 初老の男性が紅茶の入ったカップを机に並べていく。


「ありがとうございます」

「ありがとう。……元気にしてた? フレッド」


 男性と面識があるのか、師匠は話かける。


「はい。おかげさまで。先日の王都防衛、ヴァレリア様も尽力して下さったと聞きました。ありがとうございました」

「いいって。私もこの国を壊されたら困るからね。それに報酬金も貰えたし」


 師匠はそう答えるが、やはり最後の言葉が理由の全てだと思った。


「さて、二つ目の理由だが」


 フレッドとの会話も終わり、一段落したことで炎王が切り出した。


「先日、牢獄からグランが脱走した」

「え?」


 耳を疑う一言に、驚きを隠せない。


「脱走したってなんで!」

「先日起こった魔物の侵攻の際に、混乱と警備の手薄さに乗じて外部からの手引きによって脱走を許してしまった。すまない」

「そんな……」


 脱走したということは、再びどこかで人攫いを繰り返しているかもしれないということ。

 氷像になっても死なないし、投獄されても脱獄するし、あの男しぶとすぎるな……。


「となると、魔物の侵攻も偶然ではないかもしれないね」

「あぁ。先日から魔物の群れに違和感はあったのだが、目的が脱獄だとは思わなかった」


 そう言って、炎王は反省する。


「仕方ないさ。あの規模は陽動にしては大きすぎた」


 下手な国なら滅んでいたと、師匠は笑いながら言うが笑い事ではないだろうに。


「苦労が絶えないな」

「全くだ」

--- ---


「さて、三つ目。最後の理由だが」


 紅茶を飲んで、落ち着いたのを見計らって炎王は最後の話を切り出した。


「テオ。君の復讐の話だ」

「僕に?」


 炎王自ら会ってまでする話とは、なんなのか。


「災厄の情報についてだ。知っての通り、あれに対する情報は限りなく少ない。皮膚は硬くしなやかで、攻撃は強烈で俊敏だ。神出鬼没の災厄に数々の猛者達が返り討ちにされ、無事に帰ってきた者は少ない」


 ここまで、炎王が話した情報は調べた知識と変わらない。


「生存者曰く、人も魔物も認識していない。

 動くものをひたすらに破壊し尽くしているんだそうだ」

「……」


 無差別な破壊者。

 災厄と呼ばれる理由も確かに分かる。


「ここからが、本題だ」


 そうして炎王は一呼吸置いてから、本題を語り始める。


「災厄討伐の為、国を挙げて情報を集めても大した成果にはならない。だが、一人だけ情報を持っている人間がいる。俺と同じ十英雄の末裔である賢者だ」


 十英雄の賢者……!

 微かに見えてきた希望に胸が熱くなる。


「聖龍山脈に住む彼女ならば、君の望む答えをくれるかもしれない」


 確かに。賢者と呼ばれる者であれば。だが、


「どうしてアイザックさんは行かないんですか?」


 賢者が居るならば、早々に聞きにいけばいいだろうに。


「国の関係者は拒絶されている。

 政治などに悪用できる上、国同士の争いの火種になりかねないからな」

「なるほど」


 それならば納得だ。


「それともう一つ。聖龍山脈は広い上に、賢者自身特別な結界を張っていると聞く。どんなに頑張ろうと資格無き者は出会えない事もある。諦める事も時には大事だということを心に止めておけ」

「……分かりました」


 炎王の言う事はもっともだ。

 災厄を殺す為に、賢者を探し続けていたので殺せませんでした。じゃあ意味がない。

 あくまで、選択の一つとして考えるべきだろう。

 そんなことを考えていると、師匠は立ち上がった。


「それじゃあ、話も終わったことだし帰ろうか。ザックも仕事が残っているだろう?」

「あぁ、そうだな」


 そう言って炎王も立ち上がり、お開きとなった。

 応接室から出る間際、炎王に向き直りお礼を言う。


「今日はありがとうございました」

「あぁ。頑張れよ」

「はい!」


 そうして新たな情報と半年分の生活費を手に王城を後にした。

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