第4話 探求
「
広げた手のひらから、虚しい風が吹く。
あれから二週間他の魔術を教わることもなく、ひたすらに練習し続けた。
おかげで感覚を掴み、身体が覚えるに至ったのだが。
「飽きた……」
やることが他になく、別の魔術も使ってみたいがヴァレリアは最近は特に忙しいらしく、自室に籠りっぱなしで教えてくれない。
最初こそ、感動と驚きで疲れ果てるまで詠唱していたが、二週間も経てば流石に面白味もなくなる。
「暇だー」
庭の角の木陰で横たわって空を見上げる。
「
宙へとに手を伸ばし、落ちてくる葉っぱへと緩やかな風を送る。
すると風を受けた葉っぱは舞い上がり、軌道を変え何処かへと飛んで行った。
「……」
意外と面白いかもしれない。
風で葉っぱを浮かし続ける遊びを思いつき、身体を起こして葉っぱを探す。
「……あった」
浮かすのにちょうど良い大きさの葉を見つけ、すぐに手の平へと乗せる。
「
風が吹き、葉っぱが上昇する。
そのまま浮かし続けようと、風を送るがすぐに軌道からずれて落ちていく。
「……」
難しい……。
範囲を広げてみればどうだろう。
落ちた葉っぱを拾い、再び手の平へと乗せ、さっきよりも広い範囲をイメージして唱える。
「
先ほどよりも広範囲の緩やかな風が吹き、葉っぱを上昇させていく。が、浮き続けることはなく再び軌道からずれて落ちていく。
「……」
どうすればいいのか……。
落ちた葉を拾い、再び手の平に乗せ、さらに広範囲を想像して唱える。
「
風が葉を押し上げていくが、範囲は先ほどと変わらない。
そして同じように葉っぱは落ちていく……。
想像の範囲には限界があるのだろうか。
逆に範囲を狭めるとどうだろう?
風の強さはどうだ? 弱さは?
疑問が次々に生まれ、好奇心に突き動かされるように実験を始めていく。
「なるほど。これが限界か」
一通り試してみて、だいたい掴めてきた。
まず風の範囲を広げようとしても、手のひら以上の範囲には広げることはできない。
逆に風の範囲を狭めようとしても、拳の大きさより小さくはならなかった。
そして、風の強弱に関しても突風のようには強くならなかったし、呼吸ほどの弱さにはならなかった。
そんなことを考えながら、一通り確認していると陽が暮れかけていた。
「やばッ……」
急いで魔術の練習を切り上げ、夕飯を作るため家の中へと駆けこんだ。
--- ---
それから十日が経ち、実験をしたり暇つぶしに葉っぱを浮かし続ける遊びをしたりしていると。
「できた!」
風で浮かし続けること二十秒。葉っぱは何処にもいかず、浮き続けていた。
「あっ……」
はしゃいだことで、風の制御がブレてしまい葉っぱは落ちていく。
だが、初めて二十秒も浮かし続けれたことが、今は何よりも嬉しい。
「次は三十秒いけるかな」
そうして暇な時間を使い葉っぱを浮かし続けていると、
「凄いじゃないかテオ」
少し離れた所から驚くような声が聞こえてきた。
浮かすのをやめ、こちらに近づいてくるヴァレリアの元へと急いで駆けていく。
「もういいんですか?」
「あぁ、おかげさまでね。それよりもさっきの、かなり精度が上がってるね」
「えぇ、おかげさまで。師匠からはこの魔術しか教わってないので」
約一カ月放置されたことに対し、できるだけ笑顔で皮肉を言う。が、
「そうか、それは悪いことをした。じゃあ、もう一カ月その魔術で頑張ってくれ」
「え」
「私も、もう一カ月自室に籠って研究することにするよ」
ヴァレリアはそう言って皮肉を受け流し、踵を返そうとする。
「ま、待ってください!」
帰ろうとするヴァレリアの腕を、咄嗟に掴んで彼女を止める。
本当にもう一カ月、引き籠るつもりなのだろうか。
早く魔術の修行を終えて、敵を討ちに行かなければならないのに。
そんな僕を見て、ヴァレリア少し笑ってから口を開いた。
「なに、冗談だよ。もう部屋に籠ることはない。
それにテオも、この一カ月の間で魔術の使い方をだいぶ掴んだようだしね」
そう言うとヴァレリアはこちらへと向き直り、告げた。
「合格だ」
どういうことか分からず、ヴァレリアを見る。
「すまない。君を試していたんだ。内容は三つ、努力できるのか、才能はあるのか。最後に、本当に本気なのか。まぁ、様子を見る限り杞憂だったようだけど」
「どうして」
約一カ月という長い期間。何も言われず放置され、試していたと言われたことに対し。怒りよりも先に疑問が口から出ていた。
「簡単に挫折し、諦めるような人間に付き合っている暇はない。それだけだよ」
ヴァレリアはそう答えると話を変える。
「今はまだ納得できなくていい。それよりも、時間が惜しいなら今からでも教えるけど、どうする?」
願ってもないヴァレリアの提案に、
「お願いします!」
僕は即答した。
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