閻魔帳
夜も更けたので
――また、酔っ払いの失せ物か――
いつもなら気にも留めない事柄ではあったが、今度の忘れ物だけは違った。今どきには珍しい
――これは外国の文字なのかな――
手帳の中身は見たこともない記号の
手帳のページを
「もしもし、すみません」
玄関に設けられた
「今晩はもう店じまいなんですよ」
招かれざる客はしばらく押し黙っていたが、
「実はそちらで忘れ物をしてしまったようなのです。カウンターに黒い
「
引き戸の向こうには枯れ木のように
「あんたが探している物はこれじゃないか」
カウンターに残された
「それにしても日本人にしか見えないな」
「もしかして手帳の中を見ましたか」
言葉を
「信じてはもらえないでしょうが、私の正体は悪魔なのでございます。その手帳は私たち悪魔にとってはとても大切な仕事道具の一つなのです。書かれている文字は悪魔が使うものなので
悪魔を名乗る男は真剣な
――ただで返すのは惜しい気もする――
これが真実なら少しばかりの
「望みを叶えてくれるなら返してもいい」
断られてしまったのならそれまでである、という気持ちで訊ねてみたつもりだった。恐る恐る男の様子を窺ってみると意外にも
居酒屋の主人から手帳を取り戻した悪魔は軽やかな足取りで寝静まった夜の街を歩く。
「やれやれ、それにしても
月明りの下で悪魔はそう呟くと、
(了)
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