ラジエルの書
学生の頃から世話になっていた
「店を閉めると聞いてね。こんなことになってしまって残念だよ」
思わず悔やみの言葉がこぼれた。店主は青ざめた顔色もそのままに、見舞いに来たことへの礼を
「商品の整理をしていたところです。何か必要な本があったら持っていってください」
店主は
「もちろん、欲しい本はあるけれど、タダで持っていったりはしないよ。
息詰まるような重苦しい雰囲気を
――まさか、首でも吊ってしまうつもりではないかしら――
店主の落ち込みようは見ている者を不安にさせずにはいられなかった。金銭で解決できる問題ではないと知っておきながらも言わずにはいられなかった。
「それじゃ、その本をいただこうかな」
カウンターの隅に置かれた赤い
「悪いですがこれだけは譲れません。他の本なら構いませんがこれだけはいけません」
店主の
「君は神を信じますか。この本には世界の全ての知識と記録が書かれています。そうですね、神の
君は自分が大いなる存在の前でどのような位置に立たされているのか気になりませんか。己が世界においてどのような存在意義を持って生まれ落ちたかを知りたいとは思いませんか。誰だって最後には
この本はそういった全ての記録が恐るべき正確さで示されています。自分はなぜ生まれて、どのように死ぬのか。また、死後にはどのような裁きが神の前で
店主は
僕はそろりそろりと年老いた店主に近寄っていく。老人の手から一冊の本を奪い取ることなどわけないことだ。その結果、老人がどのような目に会おうとも知ったことではない。そう、どのような目に会おうとも――。
そこまで読むと、私はカウンターに広げられた本を静かに閉じた。これから起きることを知ってもどうしようもなかった。医者からは
私は私自身の運命について知ることを最後になって
「いらっしゃいませ」
(了)
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