第4話
「ぼ……は……」
(僕は何のために祈ってきたのだろう。3人の無事を、生きて帰ってきてくれることを、祈り続けてきたのだろう?)
声にならない声でつぶやく。
3人が幸せになってくれるのであれば、僕の下から離れて行ったって構わない。
尊敬する姉が幸せになってくれるなら。可愛い妹が元気でいてくれるなら。大切な幼なじみが笑っていてくれるなら……僕は捨てられたって構わないと思っていたのに。
「だ、ど……あ、じゃ……ない、か……」
(だけど……こんなのってあんまりじゃないか! こんなふうに踏みつけられて、殺されなくてはならない理由があるのか!? 僕の何が悪かったって言うんだ!?)
「すげー! さすがは勇者様だぜ!」
「リューの奴なんてイチコロだな!」
「勇者様バンザーイ! 勇者パーティー、バンザーイ!」
村人は僕のことなど見ようともせず、諸手を挙げて喝采の声を上げている。
僕の存在はただの踏み台。勇者と3人の従者の栄光を飾り付ける、ただのやられ役となっていた。
「こ……て、る。まちが……る……!」
(こんなの、間違っている! こんな結末を『神』が望んでいるというのなら、そんな世界は間違っている!)
こんな残忍なことをする人間が神託によって選ばれたというのなら、それは神の間違いに決まっている。
僕の大切な人が裏切り、勇者と一緒になって僕を笑い者にしてくる……それが神の書いた
「だ、たら……ただ……くちゃっ……!」
(だったら……正さなくちゃ。神と世界が間違っているというのなら、全てを滅ぼしてでも正さなくちゃいけないんだ……!)
「ブツブツとうるせえなあ。さっさとくたばりやが…………は?」
僕を見下ろした勇者が間抜けな声を漏らす。
ああ、そうだろう。
さぞや驚いたことだろう。
僕が生まれて初めて……自分の中に眠っている『それ』を解放したのだから、当たり前だ。
「くはっ、クハアハハハハハハハハハハアアアアハハハハアハアハッ!?」
僕の口から醜悪な高音があふれてきた。
死にかけの青年の口から発せられたとは思えないような大音声。その正体は歓喜の雄叫びである。
「自分を解放するのがこんなに気持ちイイだなんて思わなかった! 欲望の解放、我慢をやめるってのは最高の気分だなあ、勇者よ!」
「ヒッ……!?」
喜びの声を上げる僕から慌てて飛び退き、勇者は怯えた表情で剣を構えた。
「な、何なんだよお前は!? どうして生きているんだよ!」
「どうしてって……お前がさっさとトドメを刺さないからだろ? 殺しておけばよかったのになあ、そうすれば破滅を喰いとめることができたのにねえ!」
僕は全身から血を流しながら立ち上がった。
両手を広げると……身体のあちこちから無数の触手が生えてくる。
もしも人間とイソギンチャクを融合させたとしたら、今の僕のような姿になることだろう。
見るだけで怖気が走るような醜悪極まりない外見になっているが……構わない。
そんなことよりも、身体が変化するたびに湧き上がってくる力の衝動が心地良くてたまらなかった。
「どうしたあ、魔王殺しの勇者様よ! ビビった顔になってるじゃないか!」
「ッ……!」
「
「な……何なんだよテメエは!? 人間なのか、魔物なのか、それとも……!?」
「僕か? 僕の正体を聞いているのかい?」
魔王を倒したはずの勇者が、世界を救ったはずの勇者が……震えながら訊いてくる。
わざわざ答えてやる義務はないが……それでも、今日はとても気分が良い。
こんな最高の気分を与えてくれた勇者に感謝を込めて、質問に答えてやるとしようか。
「邪神だよ。見てわかるだろう?」
僕は触手に覆われた顔面いっぱいに笑顔を浮かべて、はっきりそう言い放ったのである。
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