第5話
僕には生まれる前の記憶がある。
前世において、僕はこことは違う世界にある日本という国の大学生だった。
『よっしゃ、じゃあ今日もゲームを始めようか!』
その頃、僕と友人の間で流行っていたのはTRPGというテーブルゲームである。
あらかじめ作っておいたキャラクターを特定のルールの下、様々なシナリオで冒険させるというゲームだ。
TRPGにはいくつか種類があるが……僕と友人らがその日、プレイしていたのはCoCというホラー、ミステリーを題材としたゲームだった。
『うっわ! 発狂したよ!』
『くっそー……ここで神話生物出てくるかよ!?』
『あ、オレ、精神分析もってるけど使っていい?』
ゲームが進んでいき、
突如として目の前の空間に黒い『穴』が開き、そこから軟体生物の触手のようなものが溢れ出てきたのである。
『うわあああああああああああっ!?』
『な、何だああアアアアアアアア!?』
『ギャアアアアアアアアアアアッ!?』
溢れ出てきた触手に捕まれ、友人達がどんどん穴の向こう側に引きずり込まれていく。
まるで僕達がプレイしたゲームが1つの儀式になったかのように、現れた怪物の触手が次々と僕達を飲み込んでいった。
『あ、あああっ……』
友人らが全員呑み込まれ……僕の番がやってきた。
僕が最後になったのは偶然か。それとも何かの理由があったのだろうか?
『YSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
『がっ……!?』
その時、触手は予想外の行動をしてきた。
友人達のように穴に引きずり込むのではなく、僕の口の中に触手を潜り込ませてきたのである。
『あ……ががががががががががががっ!?』
『RIURdGOEgWGPRrGEWIFaEOGHRPW’FE*WF7##いsGHIEッ!!』
身体に侵入してきた触手を通じて、怪物が何事かを訴えてくる。
その言葉は日本語ではない。いや、英語、中国語、ドイツ語、フランス語、アラビア語……世界中のどんな言語とも異なるものに違いない。こんな宇宙の果てから響いてくるような不可思議な言語を人間の口から発せられるものか。
「ッ……!」
だが……言葉は理解できなくとも、怪物が何を言わんとしているのかは理解できる。狂気と共に理解できてしまう。
その怪物は僕のことを眷族……自分の仲間として作り変えようとしているのだ。
目的なんてわからない。どうして3人の友人が殺されて、自分だけが選ばれたのかも不明である。
わかることは1つだけ。
抗えば、拒否すれば自分も殺されてしまう。
このまま怪物に身体を侵食されて仲間になるか、あるいは人間として殺されて死ぬか……その2択を突きつけられてしまった。
(嫌だ……死にたくない……!)
それは当然の帰結だった。
脳裏によぎるのは、まるでイソギンチャクに捕食されるようにして殺されていった友人の姿。
自分もあんなふうになるだなんて、とてもではないが受け入れられなかった。
僕は怪物の触手を受け入れて、その仲間になることを同意したのである。
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