やっぱり戦うとなれば、未熟でも剣を使うべきだろう。大怪我をする可能性はあっても、命を失うことはないというのだから。もし今回は倒せなかったとしても、何度でも挑戦すれば良いんだし。


 ゆえに僕は剣を抜いて身構えた。相変わらずこの金属の感触と重さには慣れない。


「ゴァアアアアアアァ……」


 どこからか響いてくる熊の咆哮にも似た音。それとともに魔方陣の中心付近――何もない空間の狭間から鎧の騎士が現れる。


 体は黄銅のような色と質感の金属で出来ていて、見た目は全身鎧そのもの。それが意思を持って勝手に動いているような感じ。顔の部分は黒い霧のようなものに満ちていて、目の部分だけが不気味に赤く光っている。


 書物で読んだことがあるけど、これは『リビングメイル』という実体のないモンスターの一種じゃなかろうか。魔法力によって命を吹き込まれた『この世にあらざる生命体』。一説には魂や悪霊などが憑依しているアンデッドだという話もある。


 しかも驚くべきはその体長。『鎧』というから屈強な戦士くらいのサイズかと思っていたんだけど、この召喚獣は岩のモンスターよりもさらに一回り大きい。僕は思わず怯んで、足がガクガクと震えてしまった。


「鎧の騎士を呼び出したのは、いつ以来かなぁ。では、見習い勇者くんのお手並みを拝見させてもらうよ~☆」


 タックさんは大広間の隅の床に座り込み、ニタニタと悪戯っぽい笑みを浮かべながらこちらを眺めている。実に楽しそうだ。


 一方、ミューリエはタックさんがいる場所とは反対側の隅に立ち、真剣な表情で僕の様子を見守ってくれている。何か言いたげな雰囲気があるような気もするけど……。


「い、行くぞ~ッ!」


 僕は剣を握りしめたまま、鎧の騎士に向かって駆け出した。幸いにも鎧の騎士は岩のモンスターほど素速くはない。僕の走力でも容易に間合いに入ることが出来て、そのままヤツの体に向かって剣を振り下ろす。



 その場に響くけたたましい金属同士の衝撃音――



 でも僕の一撃は弾かれ、鎧の騎士の体には小さな傷が付いただけだった。ほとんどダメージを与えられていない。逆に剣を握っていた僕の腕の方が衝撃によって痺れ、大きな痛みを受けてしまう。


 さらに攻撃をした直後、隙の出来た僕に鎧の騎士は巨大な拳を振り下ろしてくる。そのカウンターを避ける間なんてない。


 僕は全身に猛烈な衝撃を受けると同時に弾き飛ばされ、痛みと浮遊感が意識を包み込んだ。そして大広間の壁に背中を打ち付け、意識を失ったのだった。



 ――その後、僕はこの時の恐怖と痛みが頭に焼き付き、二度と鎧の騎士と戦うことが出来なくなってしまった。



 BAD END 6-6

 

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