第36話 『ベリオン・タベリット』 手を抜いていた?
胸を打つように熱く、簡潔に、ジェノ殿が「うん」と頷くような演出と言葉を考える! と言って会食中も何やら熱心に作戦を練っていたから、カルシェンツ様一人に任せましたが・・・こ、これはまるで愛の告は―― ごほんっ ごほん!
いや、おそらくカルシェンツ様にはそんなつもりは無いのでしょう。
どこかで聞きかじったものを実行したのか、純粋に友人になりたくての行動か。
あの花束も花言葉が全て「友情」の花で出来ていますし、とても可愛らしいです。
種類も色も大きさもばらばらな花を美しく纏められるあのセンス。さすがカルシェンツ様、芸術界の賞を総なめしているだけありますね。
しかし男の子が花を捧げられても引いてしまうんじゃ?
あれ、でも何か喜んでいる気がしますね。ジェノ殿は花好きなのでしょうか? いけますよコレ! 良い雰囲気です。
カルシェンツ様、ここは焦らずじっくりと言葉を重ねて―― って、強引にいくんじゃありません!
「性急な人間は余裕がなくて見苦しいな」って何時も晩餐会で大人達を見下しているのに、なんなのでしょう? この変わり様は。
颯爽と帰る主人の後に静かに付いて行くと、外門手前で勢いよく問われる。
「どうだった!? ジェノ君の反応は? 今まででは一番落ち着いて話せた気がするのだが・・・考えさせてくれというのはどうなのだ? 良いのか? 駄目なのか!? 花を受け取ったからOKという事で良いのではないか? 最早もう友達になったという事にしよう! うん」
『いや、まだでしょう!』
なに勝手に決めているのですか!
「考えさせて下さい」と言われたのだから少し時間をあげて待つべきです。
いまだ落ち着かない様子のカルシェンツを宥めるが「では明日聞きに行く」と興奮がおさまらない。
『明日は色々とやることが山積みですよ。考古学の研究結果の論文制作に、この間の発明の特許も申請しないといけませんし重要書類を仕上げる予定では? あと、たしかパーティーが』
「パーティーは出ない、その他も今日中に終わらすから問題ない」
問題ないって・・・常人なら一週間掛かっても半分も終わらない程の、膨大な仕事量ですよ?
今日中。あと約4時間半で終えられるわけが・・・
「いつもだらけてゆっくりやってるから、本気でやるとすぐ終わるな。これが最後だ、もっと難しい書類はないのか?毎回退屈なんだが」
夜食を持って部屋を訪れたベリオンに、寛いだ様子のカルシェンツが信じられない言葉を吐く。
いままで、手を抜いていた?
他国から届けられる大量の書類。
まず言語・文字が自国のものと違う書類が多いため、解読に時間がかかり返信を必要とするものはとても面倒だ、と執務の者が愚痴っていた。
その嘆きを聞き暇つぶしとばかりにカルシェンツ様が半分以上請け負っているのだが、5cmほどの書類の束をパラパラーっと二秒くらいで捲りそれを三回程繰り返したかと思うと、判子を押したり別大陸の文字をスラスラと書き連ねだした。
えっ、これ読んでいるのか? パラパラさせてるだけで、単語一つ読めないのですが。
高速過ぎて読めるはずがないのだが、カルシェンツは内容を全て把握しているようで、片っ端から書類の束が消化されていく。
速読。
こんな能力も持っているのですか、本当に末恐ろしい方だ。
驚いている間に論文が仕上がり、日付が変わる40分前に特許の申請書類をまとめ上げたご主人様は「ジェノ君と友達になるにはどうすればいいのか」という難題に、苦悶の表情を浮かべ頭を抱えながら部屋の中を歩き回り続けた。
そちらの方が私にとっては簡単なことなのですが、つくづく可笑しな方だ。まぁ今後とも子供達の事はゆっくり見守りながら、精一杯尽力していきますよ。
そうですねぇ、まずは『カメラ』でも買って色々備えておきましょうか。
綺麗に撮れる高性能の物を。
これから起こるであろう素敵な出来事を、ひとつも逃さぬようにね。
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