第37話  お前眼鏡曇っとるで

※主人公視点となります。



 確かにジェノは日々とても暇だ。貴族特有の習い事も行っていないし、学校にも通っていない。家の手伝いをしなくちゃいけない、なんてこともない・・・


 基本メロスは自由主義。

 

 やりたくないことは強制せず、興味を持ったことに積極的に協力してくれる。


 「甘すぎだ、そんなことではまともな人間に育たない」と、マリーテアを筆頭に使用人達が異議を申し立て、様々な分野の勉強や運動を屋敷で学ぶこととなった。

 何故か色んなジャンルのエキスパートが揃っていたため、ジェノはメキメキと上達していく。

 運動は馬術や球技にはじまり中等部から習う剣技、遠く離れた島国の特殊な武術と、僅か10歳とは思えない実力を持っている。


 学力も申し分ない。

 貴族だからと身分の低い者を蔑んだりしないし、勝気だが傲慢ではない性格。

 他人の痛みがわかる子に育ったと周囲も満足気だ。


 だが、あまりにも狭い世界で少人数の大人としか接してこなかった為、急激な変化に対する順応能力が著しく低かった。

 急に自分のテリトリーに入られることや無理やり連れまわされることに、常人よりもストレスを感じてしまう。

 ジェノが知恵熱を出したことで、周りはそのことに気付かされる形となった――


 

 

 「ジェノちゃんに友達が出来るのはいいことだと思って何も手出しをしなかったけど・・・もともと人間不信なところがあるものねぇ。我々がもっとちゃんと手伝わなきゃいけなかったんじゃないのかねぇ」


 桶でお湯を身体にかけながら、老婆が溜息をつく。


 「でもオババ様、周りに言われて友人になるなんてあかんやろ。本人達だけで向き合わな、本当の友情は生まれないんやないんか?」


 「それもそうなんだけどねぇ・・・精神的に不安定なところがあるしねぇ。ババは心配じゃよ」



 モーズリスト家メイド長と、料理長の男が木製の壁を挟んで会話している。そしてガラガラと扉が開く音が聞こえ、新たな訪問者の声が響き渡った。


 「ライヴィ、料理の支度が途中では? あと半時程で昼食でしょう。ジェノ様が心配なのはわかりますが仕事はきちんとしていただかないと」


 「うおっ、ファスト!  珍しい所で会ったやんけー、お前眼鏡曇っとるで」


 「存じています。・・・貴方、その訛りはなんなのですか? 地方出身ではなかったはずですが」


 「今ブームきてんねん、エセ方言や。あ、ちなみに此処にいるのは坊にお粥持ってきたんや、ちゃんと仕事しとるで! まぁ、今はちょい休憩中やけどな」


 「ここは粥を食べる場所ではありません。何故屋敷で待機していないのですか!」


 「固い事言うなや!」というライヴィの大きな声と、「お静かに」と窘めるファストの言葉がを壁越しに聞きながら、ジェノは口元まで湯に浸かりブクブクと空気の泡を吐きだした。

 あー・・・温泉最高。

 どうせファストにきつく睨まれているんだろうなー、ライヴィの奴。


 五日前に完成したモーズリスト家専用温泉。

 通称『モー銭湯』は驚くほど広く、忠実に日本の銭湯を再現した造りになっている。(ちなみに『モー銭湯』はメイド長のオババ様が名付けたらしい)


 寝込んでいたジェノにとっては今日が初風呂で、大浴場で気持ちよく汗を流す事が出来た。 

 露天風呂とか初めて入ったけど凄い気持ちよかったなぁ。あと滝とかあって風流だし、凄いと思う。でも、この家のどこにそんなお金があったんだろう。没落じゃなかったのか?

 

 もちろん女湯と男湯に分かれているが『混浴風呂』もあるそうで、「今度水着で入ろう」と皆で話し合う。

 敷地内の中央付近に沸き出た為モーズリストの者しか使ってないが、充分一般公開してお金を取れるレベルである。




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