第34話 『ベリオン・タベリット』 彼が「彼」かどうか
『彼に王子だと言わなかったのですか?』
部屋で寛ぐ主人に問うと、忘れていた・・・と呟いた。
が、おそらく躊躇したのだろう。
それで足を止められてしまっては、彼に抱いている興味が消えてしまう。
しかし、王子だと聞いても「家柄とか興味無いと」言いきれる人間が、果しているのだろうか?
カルシェンツ様が対等な友人を持つのは不可能なのではないか?
いや、なんとしても私が見つけてみせる! 今回は駄目でも何度でも・・・その度に傷つくであろう主人を想像し、ベリオンは唇を噛み締めた。
『あの少年と知り合いなのですか?』
「いや、一度会ったことがあるかもというだけだ。別人かもしれないし」
それ以降黙ってしまった主人に、どう『もう一度彼に会いに行ったら』と促そうか迷っていると「もう寝る、明日は早いぞ」そう言ってシルクの布団に入られた。
明日?なにかありましたっけ? ああ、そういえば他国の王族と会食が入っていた様な。
「明日・・・確かめに行く。彼が「彼」かどうか」
!!
会いに行くのですか! カルシェンツ様がここまで人を気にするとは本当に驚きです。以前会ったという「彼」とは、一体何があったのでしょう? まぁ、これでもう一度ジェノという少年と会話が出来る。
今度こそ、今度こそ上手くいきますように――
想像より遥かに広大な敷地に足を踏み入れ、長い竹林を抜け屋敷の門まで辿り着く。
ここまで来るのに結構時間をとられましたね。これの一体どこが没落?
敷地の広さ、屋敷のでかさといいかなりのものですし、建物は古いが趣のある品の良い立派なお屋敷だ。
「良いアンティークだ」
感心しながら建物を眺めるカルシェンツは少し顔色が青く、ベリオンは不安そうに水を差し出した。
朝は普通だったのに、やはり緊張していますね。
「昨日の事をまず謝罪する。どう考えてもあれは失礼だった」
一緒に深呼吸してジェノ少年に告げるセリフを再確認する。
「良い印象を持たれていないだろうからそれを払拭して、以前会ったことがあるかどうか確かめる」
『もし話してみて良い子そうなら、友人として付き合ってみては? 昨日の感じですと、あまり地位などには興味ないようですし』
「・・・うむ。そう、だな」
ぶつぶつと言葉を繰り返し、時間を掛けてようやくチャイムを押した。ここまで緊張感を孕んだ主人の顔を初めて見る。
自然と後ろで待機しているベリオンの喉も緊張で乾いていった。
まず使用人が出たらジェノ殿を呼んでもらい、きちんと謝って、それで友人になってもらって・・・うーむ、大丈夫でしょうか? 心配です。
離れた場所から見守っていると、ガチャと扉が開き――
漆黒の少年が顔を出した。
「――っ!?」
いきなり本人出てきた! 予想外です、カルシェンツ様。
主人を見ると後ろへよろめき明らかに狼狽している。
焦ってはいけませんよ! 落ち着いて下さい、まず謝罪を――
『・・・・・・・・・』
バタンッと拒絶するように閉められる扉。
え?どうしたのですか?
何故扉が閉められたのか、カルシェンツが背を向けている為声が聞こえないベリオンには把握出来ない。
えーと、謝罪して扉を閉められたわけじゃないですよね? 何を言ったんですか!?
そう思考するベリオンの目の前で激しくドアを叩き出すカルシェンツ。
何をやっているんですか!? ちょっ、テンパり過ぎです。落ち着いて下さい!
ドアをそんなに叩いたら駄目ですよ、ちゃんとチャイムを――
キンコーン
うんうん、チャイムを押せば出て来るから―― って連打するんじゃありません!
早朝ですよ!? そんなにしたら・・・
「うっせぇ―――んだよっ!!」
案の定怒られた。当然だ。
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