第33話 『ベリオン・タベリット』 もしかして・・・あがっている?
「何故?」
・・・何故と言われると困りますね。
友達になってみたら、とは言えない。プライドの高いカルシェンツ様が素直に従うはずがない。しかし彼のことが気になっているのは事実。ここで折れていては駄目だ。なんとか言い繕わねば。
『あのレミアーヌ嬢が惚れた程の人物。どんな者か、気になりませんか?』
おもいつく限りの理由を並べていたベリオンの思いが通じたのか、なんと目の前を先程の少年が歩いている。
おぉ、一斉一隅のチャンス到来っ!!
颯爽と馬車を降り、少年の目の前に立つ王子様。
あまりの美しさに息をのむ漆黒の少年。
・・・少し眠そうに見えますが。
「友達になろう」とまではいかないまでも、レミアーヌ嬢の話なんかを振って世間話でも出来ればっ!
「そこのお前、レミアーヌを振るとは気に入った! 特別に私に付き従うことを許してやってもいいぞ! お前は運がいいな。嬉しいだろう、喜べ。」
あ・・・ 終わった。
「私の目に留まるとは、お前はなんて幸運なんだ。まあ、頑張って役に立つといい!・・・いい働きをすれば、ちゃんと私の中でお前の評価を上げてやる」
ちょっ、ちょっと! どうしたんですか!?
いつもそこまで高飛車な言い方しないでしょう! 確かに上から目線な所がありますが普段ここまでは――
えっ、もしかして・・・あがっている?
よくよく見ると普段より明らかに血色がいい。もの凄い色白だから初対面の少年は気付いていないが、これは完全にあがってしまっている。
まずい! 少年が思いっきり眉を顰めている、あたりまえだ。
「レミアーヌとの縁談を蹴るとは、よく互いの家の立場を理解しているな。釣合のとれる家系同士でなければいずれ互いに不利益を被ることは目に見えている。その点、自分の立場をよく理解し、身を引いたその判断は称賛に値する! あのレミアーヌの情けない顔も拝めたしな!」
まさか、あのカルシェンツ様が緊張している? 同い年の少年に話しかけただけで!?
様々な大舞台を平然とこなしてきた天才中の天才が、今世紀最大の怪物が、大の大人達を次々と泣かしてきた『氷の王子様』が。
何故!?
レミアーヌ嬢が惚れた事といい、このジェノ・モーズリストという少年には何かあるのでしょうか?
たしかに綺麗な顔をしているし芯の強そうな瞳は目を引き、黒い髪はとても美しいと言える。
が、少し地味な印象を受けてしまう彼は街ですれちがっても人混みに溶け込んでしまって、振り返られるほどの『オーラ』などは見受けられない。
まあ、カルシェンツ様とレミアーヌ嬢の二人が異常な人種なんですけどね。
「帰っていいか?」
!?
ちょ、待って下さい!
わかる、気持ちはわかりますが頼むから待って下さいっ!
面倒臭そうに歩いていくジェノにくらいついて行く主人を熱い眼差しで応援しながら、ベリオンも移動していく。
今あがっちゃってかなり面倒な感じになっていますが、いつもはもう少しまともな子なんです!
ドジョウの世話はもう少し後でもいいじゃありませんか、カルシェンツ様に猶予をっ!
・・・え? へったくれ?
え――と、確か「へちま」がどうのこうの・・・くっ、体ばかり鍛えて頭を鍛えなかったのが悔やまれますね。
カルシェンツ様も普段なら直ぐ意味が出て来るのにテンパってて駄目な様子。
あたふたしている姿がなんとも微笑ましく、まるで子供の様だ。
ジェノに肩を叩かれ、驚きながらも少し嬉しそうな主人を見て胸が締め付けられる。
こんな風に同年代の子に接せられた事がない孤高の少年。
・・・まだ、10歳の子供なんですよね。
やはり彼には友達が必要だ。地位や才能など関係なく、本当の彼を見てくれる。そんな友達が。
無意識だがカルシェンツ様も求めているようですし、このまま汚い大人達の傍に身を置くのは避けたい。
しかし健闘むなしく、少年はスタスタと去って行ってしまった。
ああ、本当に終わった。友達が出来る絶好のチャンスが泡となって消え失せてしま――
「あの子、やっぱりあの時の少年かも」
え、あの時?
お知り合いだったのですか!?
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