第31話 『ベリオン・タベリット』 友達が一人でもいれば
『なんでも思い通りになってしまうとそんなものですか? まだ10歳ですし、様々な出会いがこれからあるのでは?』
「どいつもこいつも同じ様な態度しかとらない。心底くだらないな。初めはただの子供と侮って様々な反応が返ってきていいが、出生や能力を知るとすぐに媚びて来る」
施設の庭に冷めた視線を向ける少年に、好意的な熱視線を寄越すマダム達が歩みを進めてくる。
「人間は浅くてつまらん。何か面白い事が起こらないだろうか」
先程の男性たちの親族の奥方が、縁談が上手くいったか気にして待っていた様だ。
さっさと帰路に着こうとしているカルシェンツは彼女達を視界にすら入れず、そのまま通り過ぎた。
『そういえばレミアーヌ嬢が本日此方で見合いをすると聞きましたが』
「ふーん」
ベリオンの手の動きを見て興味なさげに返事する主人に、更にとっておきの情報を与える。
退屈を持て余している主人の気分をどうにかして上げたい。
『なんでもレミアーヌ嬢本人が強く希望し、お父上に頼み込んだ事で開かれたお見合いだそうで』
「なに、それは本当か? レミアーヌ自ら・・・」
驚きながらもすぐに現場へ向かおうと小走りになったカルシェンツの様子に、ベリオンは笑顔がこぼれた。
珍しく楽しそうだなぁ、暇つぶしが見つかったことが嬉しいのでしょう。レミアーヌ嬢には悪いですが、少し覗かせてもらいましょうかね。
貴族内で、カルシェンツ様はもはや神格化していると言っていい。
そのカルシェンツに格段に劣りはするものの、常人と比べれば高い能力を持っているレミアーヌもまた、かなりの優良物件で縁談の話が尽きない。
外見だけならカルシェンツと並び立てるほどの美しさだ。
いままで全ての縁談を断り、達観して世を眺めていた風のある少女が自らの意思でお見合いを希望した。
彼女の心境の変化は確かに気になりますね。
「レミアーヌはあまり媚びてこないから他の連中よりはまだマシだな」
そう前に言っていたことから、カルシェンツが認めている一人である少女。
少し似ていると思うんですよね、この二人。
言えば嫌な顔をされ怒られる為告げないが、おそらくカルシェンツとレミアーヌは同じタイプの人間。二人ともお互いに近づこうとはしないのは、同族嫌悪なのかもしれない。
しかし、相手が普段と違う行動をとると気になるという面倒臭い間柄である。
男同士だったらいい友人になれたかも・・・
そう考えると惜しく感じ、ベリオンは内心で溜め息をついた。
友達が一人でもいれば、大きく変わるのに。カルシェンツ様には傍にいてくれる存在が必要だ。
退屈だとか言ってる暇がないくらい一緒に笑ったり、遊んだりするような存在が。
同年代の子達に上から言いつけるように主従関係しか結ぼうとしないのは、色々とレベルが違いすぎて向こう側が最初から下手に出てくることも原因の一つ。
高すぎる地位や能力は人々から孤立させ、このままでは歪んだ価値観のまま育っていってしまう。
何か彼の意識が変わるようなきっかけが、起こりはしないだろうか。
まだ10歳の今、子供の内に――
「ごめんなさいっ!!」
勢いよく下げられた頭に、思い悩んでいたベリオンは顔を上げ庭の中央に目を遣った。
ん、なんでしょう?
黒い服を着た少年の後ろ姿が見えるが、声の聞こえないベリオンにはお見合いの状況が把握できない。
『何やら少年が謝っている雰囲気ですが、あの少年は一体どうしたのですか? レミアーヌ嬢に何か失態でも?』
一応貴族であるが没落貴族だと噂の家の嫡子が、ブロンディス家の令嬢を怒らせる様なことをしたら一大事だ。
二人の会話が聞こえる距離にいるから何が起こったかわかっているはずだが、カルシェンツは庭を凝視したまま話さない。
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