第29話 万死に値する!
クルドールさんの方が完全に地位も格も上だな・・・後で大変だろうなー、このおじさん。
大丈夫ですと言ってクルドールさんに顔を上げてもらうと、困り顔だが優しい微笑みを向けられる。
クルドールさんカッコいいなぁ! さっきのも老人とは思えない見事な動きだった。
それに比べてこのおじさんは・・・上司が頭下げているんだからあんたも謝るべきなんじゃないの?
「謝ったらどうだ」
突然怒気を孕んだ声が後ろからかかり、ジェノは飛び上がりそうになった。
うおっ、心の声が漏れたかと思った! 僕じゃない、僕じゃないぞ!
後ろを振り向くと、見るからにご立腹なカルシェンツ王子が腕を組んでいる。
あー 面倒臭い奴が来てしまった。ややこしくなるから、大人しく待っていてほしかったなぁ。でもトイレに行ってからもう15分以上も経っているし、心配して迎えに来るのは当然か。
「遅くなってごめんな」
「ジェノ君は何も悪くないよ。無事で本当に良かった!」
素直に謝ると、先程の怒気が嘘のように綺麗に微笑まれる。僕には怒ってない・・・やっぱあの男に対してか。怒っている雰囲気が伝わったのか、10歳の少年に睨まれただけで『蛇に睨まれたカエル』状態で大量の汗を流し慌てふためく男。
「で、殿下! こっこれは、モーズリスト殿を迎えにみえたのですか? 殿下はその、海よりも広い心をお持ちのようで素晴らしいっ! このマイル・ストジル、感服いたしましたっ!」
気味の悪い引きつった笑みで称賛の言葉を次々並べたてる男に、ジェノは感心してしまう。
思ってもいないセリフをよくこんなに吐けるなぁ。本音がすぐ出る僕とはえらい違いだ・・・少しくらいはこういうスキルがあった方がこの世界は生きやすいんだろうけど――
僕には無理だろうし欲しいとも思わないなぁ・・・ま、いっか。
「聞こえなかったか? ――謝れ、と言ったんだ」
途切れない男の言葉を遮る静かな声音。
声を荒げているわけでもないのに底冷えする声に「ひぇっ」と奇妙な声を上げて男は黙った。しんと静まり返ったホールに謝罪の言葉が何度もこだまする。
「私に謝ってどうする? 貴殿が謝罪すべき人物は別だろう。そんなことも貴理解出来ないとは幼児以下だな・・・支配人の職は辞任した方が美術館の為になるのではないか?」
おろおろする大人に侮蔑の目を向ける子供。
こっわ! 普段と違いすぎるだろっ、寒気がするわ・・・今春だけどここだけ『ブリザード』が吹雪いてるみたいだ!
声も顔も雰囲気も、10歳とはとても思えない落ち着きように若干恐怖を覚えたジェノは、壊れた人形の様に謝ってくる男をすんなり許してあげた。
だが、
「そういえば・・・すぐに飽きる、などと言っていたな」
スッと肩に手を置かれ引き寄せられる。
ん? なんだ?
「飽きる日など永久に来る事はない。私とジェノ君の友情は永遠だ! このカルシェンツの親友を愚弄した罪、万死に値する! 二度と私達に近づくことは許さん・・・今後ゼールディグシュの敷地を跨ぐこともな」
よく通る声で言い放ち、満足そうな顔をこちらに向けてくる美少年。
「そ、そんなっ!」と膝をガクガク震わせ青ざめる男と、驚きに目を見開くクルドールさんの横を、肩を抱かれながら呆然と通り抜けた。
ゼールディグシュの敷地ってめっちゃ広いから無理じゃね?
てか「万死に値する」って本当に言った人初めて見た!メロスに報告しよ。
あと「永久」とか「永遠」とかって嘘くさいよね。『永遠の愛だ!』とか言っといてあっさり離婚するんだぜ、超うける。
・・・・・・。
うん。わかってるんだ・・・本当につっこむべきなのはそこじゃないって。
「いつ誰と、誰が、親友になったんだっ!?」
「いやぁー、外堀から埋めるのもありかなー? と・・・・・・てへっ!」
可愛らしく舌を出す王子様。
ビシッ
オデコに渾身のデコピンを放ってそのまま帰宅した。
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