第28話 嘘は言っていませんから
「御忍びで連れて来るんだ、ある程度気に入られているのだろう? モーズリストという名は聞いたことないが、一応は貴族の様だし・・・上手くいったら勿論それ相応の対応をしよう。我がストジル家の方が、だいぶ大きいだろうしねぇ」
お互い利益があるからいい話だろう? と、口の端を上げて笑う男にげんなりする。
「興味ないです」
「ふはっ、悪いようにはしないさ! 話す時間がほしい・・・ガードが固くてね、少し口添えしてくれるだけでいいんだ! 相手はあの殿下だぞ? 次期国王陛下だ! 贔屓してもらえれば家柄の地位も様々な事柄が今後は安泰だ・・・君もそれが目当てで仕えているのだろう? どうやって取入ったのだ!?」
仕える? 僕がまるで「しもべ」の様に、カルシェンツのご機嫌取りでもしていると思っているのか?
この男の言っている事、初対面時にカルシェンツに言われた口説き文句と殆ど一緒だな。
あの時自分で言ってて虚しくならないのかな? って思ってたけど・・・やっぱり、そんなことで人の傍に居ようとするのは間違ってる。
少なくとも、僕には絶対まねできない。
「仕えていません、対等です。取入ったりもしてない・・・ただいつも一緒にいて他愛無いおしゃべりをしているだけで」
「ふはっ、そんなわけないだろう、殿下は類まれな天才なんだ! そこら辺の人間とは格が違う、石ころ同然で相手にすらしない! どうせすぐ君にも飽きるだろ。その前に出来るだけ協力してくれ!・・・私程の人間でも挨拶が出来ればいい方なんだぞ。パーティでさえ一言も誰とも会話をなさらずにご退出なさるから、取入る隙がなくどの家柄の貴族も苦労しているんだ」
・・・飽きるって。
諌めるクルドールさんの言葉に耳を貸さない太った男は、更にジェノに詰め寄る。
「その殿下と対等? むはっ、笑い話にもならないぞ! 構ってもらえる今の内に得られるものは全部得ておけ。それが君の将来の為だっ!」
・・・こんな男だと分かってたからカルシェンツは冷たくしたのか? いや、男の口ぶりだと誰にでもあんな態度をとっているようだな。
「笑い話にしなくて結構です、僕は嘘は言っていませんから。――とにかくお断りします」
関わり合いになりたくない男を見上げ、ジェノは淡々と考える。
自分に近づいて来る人間がこういう思惑を抱いた人ばっかりって、僕なら絶対に嫌だ。
だから地位とかに興味がない、「王子様」から逃げようとする僕を選んだのかもしれないな。
自分に利益を求めて来ない・・・こういう面では安心だろう。
そう思うと、納得は出来るが――
少し、胸が「ちく」っと痛んだ。
・・・まだ具合悪いのかな? とりあえずここから去りたい。
「チッ、気に入られたのがこんな分別もつかない子供ではなく私だったならっ!」
子供だからこの有益さが解らないのだと更に近づいてきた男は、ジェノの寸前で動きを止めた。
「それ以上、我が美術園の大事なお客様に失礼を働く様なら、しかるべき処罰を与えることになりますよ。子供の前で恥ずべき行為は止めていただきたい・・・仮にも君はここの施設の支配人ではないのですか? 貴族が聞いて呆れますね、恥を知りなさい!」
目にも留まらないスピードで男の喉元にステッキを突きつけたクルドールさんは淡々と、しかし否も言わせぬ迫力で男を黙らせた。
男は間抜けな悲鳴を上げ三歩程後退し、目を白黒させている。
「大変申し訳ありません」
と頭を下げる総支配人を見て、太った男は肩で息をしながらバツが悪そうに横を向いた。
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