第24話  THE・体育会系のノリってやつだ

 じたばたもがくと更に嬉しそうに抱き付かれ、美少年の腕が腹に食い込み悲鳴を上げそうに

なる。


 ――この状態を冷静に考え、ジェノは青ざめた。

 いつにも増して高いテンション、外れない腕、こちらのいうことを聞かない言動・・・

 やばい、これはやばい!どうにかして彼の気を静めなければ――


「執事さん!ちょっと助けてくだっ・・・さ・・・っ!?」


 パシャッ。


 首だけ後ろに向けたジェノは、驚きのあまり抵抗するのを止め、固まってしまった。


 一眼レフ――!?


 パシャ、パシャッ。

 高性能カメラを間近で構えた執事が、無言で写真を撮る・・・微笑みながら。


 何してんの!? え、何してんのマジで・・・助けてよっ!!

 怖い怖いコワイコワイこわいこわい!


「い・・・いいかげんにしろよっ」


 次の瞬間、ジェノは思いっきり頭を後ろに反らせ、渾身の気力をオデコに集中させた。


 ゴッ!!





「・・・すみませんでした、嬉しさのあまり調子に乗りました」

 そう言って赤らむオデコを擦りながらベンチの上で正座している少年を見下ろし、少女は腕を組んだ。


「そもそも僕は君と親友になる気はこれっぽっちも無いんだけど」


「今は、だよね? これからはわからな――」


「わかる! いきなり抱きつくような奴断固としてお断りだし。てか、前から思ってたけど君ベタベタしすぎ。なんなの!? 女の子同士じゃないんだから友達だからってそんなにくっついたり普通しないし・・・僕らは別に友達じゃないけどね!」


 一瞬友達だと認めた言い方になって焦った。

 危ない、もっとひどい目に合うところだった!


「うぅぅ、いずれは友達になってみせるよ。それに、男同士でもくっつくのは普通だと思うんだ」


 はあ!? 何言ってんだこいつ、おかしいだろ! 

 カルシェンツは立ち上がると黄緑色の瞳を輝かせ、力強く言った。


「メロスおじ様と神林殿はよく肩を組んだり抱き合ってダンスしたりしているじゃないか! 信頼しきった友だと仰っていた、とても素晴らしい間柄だ。憧れるよ!」


「・・・・・・・・・」


 面倒臭いところを目標にしやがって・・・よりにもよってあの二人か!


 あの二人は暑苦しい人種なんだよ!

 THE・体育会系のノリってやつだ。

 肩を組んでバシバシ叩き合ったり、抱き合ってお互いの健闘を称えあったりしている。酒好きで酔っぱらうと、追いかけっこしたり踊り出したりと子供の様に仲がいい二人。


 カンバヤシがメロスに心酔していて、もはや崇拝に近い信仰心を持っているらしいから『友達』とは少し違った間柄みたいだが。


「僕は嫌なんだよ暑苦しいの。だからもうひっついたりしないで」


「えぇ―― ・・・・・・ヤダ」


「はぁ!?」


 ヤダ? ヤダって言ったのか今!?


「反省はしているよ、暴走しないように今後ちゃんと気を付ける。でもスキンシップはとても大事だとメロスおじ様が!」


 くっそメロス、余計な事をっ。

 ベンチから降りたカルシェンツは眩しそうにジェノを見つめ、流れるような動きで手を差し出した。


「だから今後もくっつくのは止めない、ジェノ君と本当の友達になりたいからね。言ったろ? 覚悟してって」


 嘘のない言葉。 全身全霊でぶつかってくる少年。



 ―――どうしてだろう。


 どうして・・・僕なんだ。

 なんでも持っている目の前の王子様は、なぜここまで僕を求めるのか。

 誰かに傍にいてほしかったから? 特別扱いしなかったから珍しかった?


 『友達』がほしいならいくらでも出来るだろう。

 僕にこれ程まで拘る理由は何だ?


 こいつは僕に、一体何を求めているのだろうか。

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