第25話  ジェノの戸籍は「男」

 はじめて会った時は『しもべ』宣告だった。

 

 それが次の日には『友人』に変わり、その日の夜に『親友』となった。

 少年の中でどんな経緯でそうなったのか、ジェノは歩きながら首を傾げる。基本関わりたくなくて、ひどい態度しかとっていない記憶があるのだが・・・


 やはりマゾ? 貴族ってSMのイメージが少しあるんだよねー、偏見かな?

 抱きつかれるのとか本当に困る。少しのスキンシップとかならまだいいが、あまりの密着度に戸惑うばかりだ。


 僕が知らないだけで友人の距離感とはあんなものなのだろうか?

 確かにメロスとカンバヤシは普段よくじゃれ合ってくっついているが『まるで猿ですね、馬鹿は放っておきましょう』そう毎回執事のファストに呆れられている。

 

 ああいうのは駄目なんだと思っていた・・・けど、

 『ファストは辛口だ』ってメロスがぼやいていたこともあったし、後で皆に聞いてみよう。


 しっかし普通出会って二日目で「親友になりたい」って思うものかなぁ?

 稀に「一目でこの人と結婚するのがわかった」って言う人もいるし、所謂第六感みたいなものか?単に思い込みが激しいだけという可能性も・・・うーん。

 考えても全くカルシェンツに懐かれた要因が解らず、ジェノはグシャグシャと頭を搔く。


 本人にはもちろん聞いた。

 が、「ジェノ君は特別だから」とか「後光が見えた!」とか「新世界へ導いてくれる存在だ!!」と騒ぐ始末。

 ついていけない・・・ 本音を言うと、ジェノは出会った当初よりカルシェンツのことが苦手になっていた。

 

 一緒にいるたびに彼から離れたい気持ちが増していく。それなのに何故か二人が仲良くなっていっていると周りの人間は思っているようなのだ。

 「解せない・・・」

 毎日一緒にいるからか?勝手にへばり付かれているだけだ! あぁ、頭痛くなってきた。


 最近頻繁に起こる頭痛に顔を顰めていると、上の表示板に描かれたトイレマークを発見する。

 「トイレに行く」と言ったジェノに、付いて行くとカルシェンツは訊かなかったが、これ以上我が儘言ったら帰ると脅しなんとか一人で抜け出した。手早く用を足し、誰も傍にいないのを確かめて外に出る。

 

 あれ、こっちから来たっけ?なんか柱の色が違うような・・・通路を一本間違えたかもな。

 戻ろうとして近くの売店にジェノは目を留めた。

 飲み物でも買って少し休憩しよう。あの美少年の相手は疲れるし。

 変わったデザインの椅子に腰をおろし、林檎ジュースを飲みながら先程入ったトイレをぼんやりと眺めた。

 

 トイレは一番困る。

 世間から男の子だと思われているジェノにとって、トイレは鬼門である。

 だからジェノはあまり外出せずに屋敷に籠っているのだが・・・まぁ、ただ屋敷が楽だから出ない出不精なだけですけどね。

 

 

 ――でも、女だとバレても実はそれほど問題は無かったりするんだよねぇ。

 実際戸籍上ジェノの性別は『女』と記されている為、本気で調べればすぐ判明する事柄だ。ジェノの外見や言動、使用人が「坊ちゃん」と呼んでいることから男の子だと思われているだけで、特に隠蔽工作等はしていない。

 

 だが五年前、ジェノの戸籍は「男」となっていた。

 跡取りにするため母親が嘘の申請をした為だ。

 スラムで非公認で産まれたジェノにはそれまで戸籍は無く、あちこちに根回ししてその申請が受理されたのだという。

 

 飲み終わったジュースの缶を素晴らしいコントロールでゴミ箱へ投げ入れ、吹き抜けの天井を見上げ目を瞑る。


――出会って三週間目でジェノが「女の子」だと気付いたメロスは、慎重に聞いてきた。


 『どう生きたいか』と

 好きに生きていい。男でも、女でも、やりたいようにしていい・・・ジェノには休息が必要だ。

 ちゃんと「心」を休めよう。

 そう言われた記憶がぼんやりと残っている。

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