第19話 『神林虎丸』 何だささくれって
屋敷に戻ると、玄関入ってすぐの大階段にちょこんとジェノが座り込んでいた。落ち込んでる様に見える少女は、階段のど真ん中に陣取り頬を両手で覆っている。
幅が広いからいいが普通は邪魔になるぞ坊ちゃん。
二階の広間に向かおうと階段の端を上る。
かなり様子が気になるが・・・ここはそっとしといてやろう、女の子は色々あるもんな。ふっ、俺はウザイおっさんにはならないぜ。
「いやいやスルーやめてよ! 構ってオーラ出してんじゃん。カンバヤシ冷たい!」
頬をプクゥーっとふくらませ恨めしそうに見つめてきたジェノに「うそぉ!?」と振り返る。
くっ、優しさが仇となったか。
横のスペースをポンポンと叩かれ、言い訳しながら隣に腰を下ろした。
「どうしたぁ、おっさんが解決出来る悩みか?」
「あいつどうにかして!」
おっといきなりだな。しかめっ面で俺の太ももをぺしぺし叩く坊ちゃんはご立腹だ。
あいつってのはおそらくカルシェンツ王子の事だろう。
「凄い変な奴でさ、うるさいし異様に近いしキウイを邪魔者扱いするし・・・疲れる」
「んー坊ちゃんと仲良くなりたくて必死なんじゃねぇか? ほら、坊ちゃん淡泊なとこあるから向こうは焦ってんだよ」
こんな初期段階で亀裂が入るのは困るので、一応王子様を擁護しておく。いきなり互いを理解するのは難しいだろうが、時間をかければ距離も縮まるだろう。
「なんでか僕のスケジュール把握してていつも先回りされるんだけど」
それは・・・完全に情報を売ってる奴がいるな。
一人嬉々として売りそうな人物の顔が浮かび、話題を変える。
「あー王子様とはどんな話をしてるんだ? 天才なんだろ、やっぱり凄いのか?」
「わかんない。僕の事ばっかり聞いてくるし、無駄に褒めてくるんだよね」
ぺしぺしが段々べしべしに変わってきた。
「いい筋肉してんなー」と深く頷く坊ちゃんに苦笑する。10歳の女の子とは思えない言い方に少し不安になりながら「褒められるのは良い事だと思うが」と言い、力こぶを作ってやった。楽しそうにニギニギと触るジェノは、愛らしい笑みを浮べご満悦だ。
「今日なんかカサブタの色が理想的で、ささくれの跳ね具合が絶妙だ! って叫ばれたんだけど、褒められてるのか馬鹿にされてるのかわからなくなってきた。何だささくれって、細か過ぎるわ!」
確かにそこまでいくとよくわからない。多分もう色々出し尽くしたんだろう、まだ内面を深く知らない段階で見た目を褒め続けるとそうなるのか・・・
「どんなにうざがっても嫌だって言ってもついて来るし、あいつMにみせかけたSだと思うね・・・いや、Sと思わせといてMかな?」
悩みだしたジェノに「どっちでもいいわ!」とつっこんだところで、夕食を告げに来たメロスの乱入で会話が終わる。神林は伸びをしながら今日一日を振り返った。
二人の性格は全然合わないのかもしれないが、それならそれでいい気がする。例えどんな関係を築こうと、それは坊ちゃんを色々な意味で成長させてくれるだろう。あとは良さげな方向へと背中を押すのが俺達の役目だ。
存分に遊んでゆっくり大人になるといい。おっさん達がのんびり見守ってやらぁ!
神林はゆる~く、そして固く決心し、微笑んだ。
あぁやっぱり今日は、平和だなぁ。
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