第20話  此処は作品を見るための場所だよね

 ◎主人公視点に戻ります。


 

 幾重にも重なった蔓が、支え合いながら等身大のキリンの姿を模っている。

 これって自然に出来たものじゃないよな。

 目の部分に計算された緑の葉を見つけジェノは微笑んだ。


「・・・これが気に入ったの?」


「ん? ああ、動物っていいよな」


 見上げていた首を真横に向けると、何故か不貞腐れた顔が目に入る。

「ふーん」とつまらなそうに俯く美しい顔にジェノはムッとした。

 なんなんださっきから・・・

 いつもの様に家に押しかけてきて無理やり連れ出しといて、何故お前がそんな顔をしているんだ!


 はじめは「私が案内するよ!」と上機嫌ではしゃいでいたくせに、何故か徐々に不機嫌になっていった美少年。唇を尖らせ「向こうに行こう」と腕をとり歩き出すカルシェンツに反抗しジェノは歩を進めない。


「ジェノ君?」


「僕はまだコレ見るから、行きたかったら一人で行けば?」


「え・・・」


 とても静かな美術園の庭園の中、不貞腐れた二人の子供は見つめ合った。普段閲覧客で賑わうであろうこの国最大規模の美術園。しかし今日は子供二名と付き添いの大人一名しか来場していない。


 どうせ貸し切ってんだろうな・・・どんだけだよ王子様の権力。

 子供の遊びで莫大なお金が動いていると考えると、なんだか怖い。

 様々なモニュメントや工夫を凝らしたアート作品、細かい所まで計算しつくされた美しい施設の造りはあまり芸術に馴染みが無いジェノでも楽しめる・・・でも。


「なんで此処に連れて来たのかわかんないけど、来たからにはじっくり見て回りたいし。そんな不貞腐れた顔の奴と一緒にいたくない」


「ぅえ!? あ、いやっ・・・あの」


「なんなの、何が不満なわけ? 僕が気にいらない事したの?」


「違う、そんなこと無いっ! ただ・・・」


 ただ? しかめっ面で相手の言葉を待つ。

 苛々した様子のジェノにカルシェンツは焦りはじめ、大きめの声で訴えてきた。


「作品ばっか見て私に構ってくれないから!」


 ピクッとこめかみがひくつき、ジェノは普段見せない様な笑顔をカルシェンツに向けた。


「・・・此処は作品を見るための場所だよね」


「う、うん」


「嫌がる僕を無理やり連れて来たのは君だよね」


「・・・はい」


 思いっきり掴まれていた腕を振りほどき、踵を返す。


「帰るっ!」


「まっ、待って!」


 縋りつくように追いかけてくるカルシェンツを無視し、来た道を速足で戻る。


「同じ芸術を見て色々共感して、仲良くなろうと思ったんだけどっ・・・ジェノ君作品にばっか目を向けて・・・私はジェノ君しか見てないのにっ、寂しくなってきたんだもん!」


「作品見ろよ!それじゃ共感もなにも出来なくて仲良くなれねーんじゃねえか!?」


「あ・・・」


 回り込んできたカルシェンツに言い返すとアホみたいに口を開けて固まった。

 こいつ頭良いの嘘だろ!

 一か月近く毎日一緒にいるからカルシェンツの知能が図抜けているのは分かっている。だが度々どうしようもなく『バカ』だと思わざるを得ない。


「その、ジェノ君の近くにいたらテンション上がっちゃって・・・作戦吹っ飛んじゃった!」


 恥ずかしそうに頭を搔く少年に真顔で「帰っていいか」と聞くと、泣きそうになりながら慌てふためく。


「お願いだから待って、もう絶対我が儘言ったりしないから。その・・・ちょっと作戦練り直してくるから帰らないで待ってて下さい!」


 そう言ってカルシェンツは後方で心配そうに佇んでいる執事に駆け寄り、慌ただしそうに『作戦会議』を始めた。


 出た、作戦会議!

 ジェノと何か困ったことが起こるとカルシェンツは御付きの執事とこそこそ話し出すのだ。毎回2人が仲良くなれるように色々知恵を絞ってくれるとても有能な存在らしい。


 が、成功した試しはない。

 いつも天才と名高い王子様が作戦通りに動かないのが原因だがな。

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