第18話 『神林虎丸』 エンジェルはマゾなのかしら?

 「僕はジェノが辛い想いをしなければいいんだ、友達になるのには全面的に協力するしねー」


 ぱぁっと、花が咲いた様に笑顔になる美少年に、今度は本当に微笑む旦那の姿を見て驚いた。


 おお、この少年なかなか強いな。

 あれをすぐに立て直すとはかなりの精神力だ。それに珍しくメロスの旦那が気に入っているし、どうやらただの王子様じゃなさそうだ。


 だが・・・何故か結婚の許可をもらいに来た彼氏と父親の会話に聞こえる。

 あれ? 友達になりたいんだよな?


 この子、絶対に友達いないだろうな。

 作ったこと無いからこんな変な言い回しになってるんだ・・・周りの奴ちゃんと教えてやれや。

 目線を上げると白馬の後方にひっそりと立っていた執事の男が頭を下げてきた。


 うおっいたのか! 気付かなかった、なかなかやるなぁ。

 かなりの手練れだと雰囲気で察し、今度手合せ願いたいと笑が浮かんだ。


 

 その後、坊ちゃんの元に向かった美少年はまるで愛の告白の様な友人の申し込みをし、メロスの旦那を大爆笑させた。

 やっぱズレてんな、この子。


 パニクっているジェノ。


 笑い転げるメロス。


 発狂するマリーテア。


 満足気に帰って行った王子様のせいで屋敷は大混乱だったが、その後温かい温泉に入って、なんとか皆落ち着いたのだった。


 満面の笑みで懲りずに擦り寄っていく姿を

「ああっ! エンジェルが噛まれたっ!!」


「そら尻尾をあんなに引っ張ったら噛まれるわなぁ。自業自得だ」


「「あ・・・」」



 王子様が坊ちゃんに頭を叩かれる。もはやいつもの光景になりつつあるジェノのシバきに、王子様は妙に嬉しそうだ。見ると、王子様だって事を忘れそうになる。


「エンジェルはマゾなのかしら?」


「否定しきれんな」


「でもそこも可愛いわね」


 うむ・・・今日も平和、だな。

 マリーテアに付き合いきれないので休憩することにし、屋敷へと向かった。


 

 どっぷりと日が暮れようやく帰る気になった王子様を外門まで送っていくと、馬車に乗らず此方を振り返る。何か俺に用があるようだ。


「お願いがあります・・・ジェノ君の様々な情報を教えて下さい」


 恐ろしいほど真剣な瞳に一瞬たじろぎそうになったが、「いや、本人に聞いた方がいいんじゃね?」と返す。その方が仲良くなるだろうし。


「聞いても警戒しているのか教えてくれないのです。好きなものをプレゼントしたいのだが」


「ちなみに何を質問したんだ?」


「スリーサイズを。最高級ブランドの洋服を見繕いたいと思って」


 あー・・・うん。それは教えてくれねぇわな、女子にはきついだろ。特に王子様は坊ちゃんより細身だ。普段男の子っぽいしまだ10歳だが女は面倒な生き物だからな、あれで案外体型に気にしていたりして。 


「お揃いで出歩くプランを練っているがなかなか実現しない」とぼやく少年に、坊ちゃんはペアルックとか絶対しないだろうなぁと口の端を歪める。


「まぁプライバシーってのがあるからな、俺の口からは教えられん。すまんな、地道に頑張ってくれや!」


「ふむ・・・その通りですね、小細工無しでぶつかっていきましょう。それでこそ世界一の親友と言うもの! サイズも正々堂々入手することにします」


 不敵な笑みを浮かべる王子様と、溜息をつき頭を振る付き人の姿を見て、首を傾げる。別の方法?


「どうやって入手するんだ?坊ちゃんは教えてくれないんだろ」


 聞くと白く美しい手をスッと差し出された。反射でこちらも手を出し、小さな掌を握り返す。

 何だ? 握手でいいのか?

 目の前の少年が意味深に頷いたかと思うと「デカいな」と呟いた。


「相談に乗ってもらったお礼に、今度手袋をプレゼントさせてください。ぴったりで着け心地のいいものですのでお楽しみに。では本日はこれで失礼しますね、また明日」


 颯爽と走り去る馬車をぼんやり見遣り、これはまずいんじゃねーか?と顎を擦る。


 今、完全に手のサイズを測られた。

 握っただけでわかるのも凄いが、問題はそこじゃない。


 スリーサイズを入手するという事は、手を握るぐらいでは済まないだろう。

 うーん坊ちゃん、さすがに同情するぜ。相手が美少年なのがせめてもの救いだな。

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