第15話 笑顔プリーズ!
真ん丸るい目を覗き込み、口元に小さく切ったマンゴーを持っていく。勢いよく手から果実を奪い噛り付く姿は「愛らしい」の一言だ。
今自分の目尻は下がり、頬が緩んでることだろう。あぁ、ずっとこの可愛い生き物を眺めて過ごしたい。
しかし残念な事に、隣にいる存在がそれを許してはくれなかった。
「そいつばかりじゃなく、私にも構ってくれ! こっちをちゃんと向いて私を見ておくれよジェノ君」
何だこいつ鬱陶しいな、この構ってちゃんめ。
「隣にいるのに何故か遠い気がする。何ということだっ、もっとお話をしようじゃないかジェノ君!」
椅子を寄せて来るな、顔を覗き込んでくるな、今まででも充分近かっただろうが!
はぁ、落ち着け僕・・・可愛いこの子で癒されよう。
「そんな表情も出来るんだね、私に向けるものとは全然違う気がする。何故なんだいジェノ君! 私にもその顔で接してくれないか、笑顔プリーズ!」
いやいや、くっそうざい。
頼むから少し大人しくしていてくれ。
「名前、キウイにしようかな」
「キィキィ鳴くからかい?私はサルでいいと思う」
けんか売ってんのか!? 猫にネコって名付けるようなものだぞ!
膝の上で指にじゃれつく子ザルを眺め再度心を宥める。
ふぅー、キウイは本当に可愛いなぁ。誰かさんとは大違いだぜ。
「こいつ今ジェノ君の指に噛み付いたぞ! もう檻へ戻した方がいいよ。絶対その方がいいよ。決まり! さあ今直ぐ私と遊ぼう!」
「お前もう帰れ!」
「なっ、なんでだい!? まだ来て3時間半しか経っていないよ? これから二人でスゴロクとバドミントンと魚釣りをするんだから、まだまだ帰らないよ。私はずっとジェノ君の傍にいるよ」
「勝手に決めるなっ、なんだその予定は! てか、毎日家に来るのやめてくれないか? こっちにも都合があるんだ」
「ジェノ君は学校行ってなくていつも暇だから毎日遊びにおいでってメロスおじ様が仰っていた。私は暇で退屈している可哀想な親友を楽しませるという重役を担っているんだ」
くっそメロスめ、余計なことを言いやがって! 大体こいつ四日連日で押しかけて来るなんておかしいだろ、他人の迷惑もちょっと考えろよな!
「お前は学校あるんだろう?勉強は大事だぞ、頑張れ」
「応援してくれるのかい!? 嬉しいよ! しかしジェノ君と仲良くなる方が私にとっては重要な事柄だ! それに勉強は大卒までの範囲が終了しているから問題ない」
は? こいつ僕と同じ歳だよな?
今僕と同じ10歳のはず・・・メロスが言っていたことは本当だったのか。
目の前の美少年をまじまじと見つめると、嬉しそうに顔を赤らめ照れだす。
いや、意味わからん反応するな。
連日高いテンションで屋敷に通い詰められ、ジェノは辟易としていた。
それもこれも全てあの日のせいだっ、あの時冷静に断ってさえいれば!
数日前の自分をジェノは心底呪い、深々と項垂れた。
「大丈夫かい? 親友の私が優しく擦ってあげよう。痛いの痛いの、汚職塗れの役員の所へ飛んで行け~」
何それこの国汚職に塗れてんのか!? 王子様が言ったら洒落にならないだろう。
楽しげな少年にオデコを擦られ、少女は思いっきり叩き落とす。
「王子様だろうが天才だろうが関係ねー、僕は一人で遊びたいの! いいから帰れっ、触るな!」
「はぁ~そういう所が良いよね、ジェノ君て! 仲良くなるまで絶対に帰らないからっ、覚悟してくれたまえ親友!」
――っ、親友じゃねぇ!
僕の平穏は、どこかへ消え失せました。
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