第13話 金髪が風で波立つ
フードで顔は見えないが紛れもなく乗っているのは、今朝突撃してきたあの人物だろう。
白馬から降りた小柄な黒マントは屋敷の当主であるメロスの元へ向かって行き、なにやら話し出した。
ジェノの位置からでは会話が聞こえないが、爆笑しているメロスの姿から凄い盛り上がってる様子が伺える。ジェノは気になりながらも自分から話しかける勇気はなく、大人しく待機し続けた。
キョロキョロと落ち着きなく立ち竦んでいると、フードをとった相手がクルッと振り返り、質の良さそうな布をはためかせて近づいてくる。
溜息が漏れる見事な金髪に夜でも映える白い肌。
見蕩れるような麗しい顔立ちは月の下で更に魅惑的に仕上がり、ジェノは自然と目を奪われた。昼夜関係なく煌きを放つ美少年はなにやら緊張感を漂わせ、形の良い桜色の唇から細く長く息を吐き出す。
悩ましげな少年を前にして、ジェノは驚いていた。
来てもいいと許可をだした時点でまた訪れるだろうとは思っていたが、予想以上の早さだったのだ。
おいおい、まだ一日経ってないぞ? 知り合って間もない人物の屋敷に一日二回来るって・・・余程の要件があるのか、それともただの迷惑野郎か。
ジェノの2m前で少年は足を止めた少年は、張り詰めた表情で夜空を見上げた。
月明かりに照らされ反射する金髪が風で波立つ光景に、向かい合う少女は瞳を逸らせず息をのむ。
これほど美しい者がこの世にいるのか。そう思わせるほど、彼の美は完成されていた。
これでは周囲の者はなんでも我が儘を聞いてくれただろう。歓んで従者になろうとした者が多くいたのも本当かもしれない。
深く長く深呼吸する少年の言葉を、ジェノは静かに待った。
意を決したのか、力強い黄緑色の瞳がジェノの黒目を捉える。
その瞬間、動けなくなった。
フワリと揺れるマントの下。
鮮やかな花で出来た可愛いらしい花束が不意に現れ、視界を覆う。
片手で持つのに大き過ぎるそれは覆われていたにも関わらず、形が崩れる事なく綺麗なまま保たれてあった。
オレンジにピンク、白や紫、黄色の小さな蕾に濃い緑の葉。
色も種類もばらばらな花束は不思議と調和し、とても可憐に収まっている。
花束に目を奪われていると、ふいに名前を呼ばれ顔を上げた。
流れるような美しい動作で片膝をついた少年は、零れ落ちそうな黄緑色の瞳を細め、可愛らしい花束を優雅に掲げる。
「ジェノ・モーズリスト殿。私と・・・親友を前提に友達になって下さい!」
「・・・・・・」
一瞬、思考が停止した。
滑らかな所作とロマンチックな演出、世にも美しい少年の組み合わせに物語の世界に入った感覚を味わっていた少女は、告げられたセリフを反芻して思わず首を傾げた。
友達? あぁまず友達からってことね。それで親友になる前提で―― っていやいや! アプローチの仕方間違ってね―か!? ちょっとドキドキしちゃったじゃんかコノヤロー!
世にも稀な美少年から跪かれて言われた言葉の意味は全く色気のあるものではなかったが、演出とセリフ回しは完全に愛の告白に使用されるやつだ。
おいおい誰か、こいつにちゃんと教えてやれよ。このままじゃまともに育たねーぞ!
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