第12話 踏まれたらあの世行きっす
徐々に拡大する水溜りは四つの照明機材でライトアップされ、ちょっと綺麗だ。
40~42℃とまさに適温だと判明し、集まった使用人達が宴の用意をしてはしゃいでいる。
なんか出来過ぎな気がするけど・・・メロスだしな。
「こりゃあ財宝を掘り返す前に金の泉を掘り当てちまったなー」
「財宝ってどういうこと?カンバヤシ」
「おお坊ちゃん、昼間に財宝見つけてジェノにプレゼントだ!ってメロスの旦那が叫んでたからな。財宝掘り当てようとして温泉にぶつかったんだろーぜぃ」
水溜りを囲う道具を持ってきた庭師のカンバヤシが意気揚々と答え、その隣ではマリーテアが呆れた様子で首を振る。「もうすぐ業者が着くぜぃ」と言いながら素早く作業し仕事を熟す庭師を眺め、ジェノは納得した。
一週間程前、ここから南に50キロ行った坑道で化石が発見されたのだ。おそらくその情報を今朝聞いたメロスが、うちの庭にも何か埋まってるかもと思いたち適当に穴を掘った。
動けば何かしら事件が起こると名高い迷惑男の噂は伊達でなく、欲していたものとは違ったがメロスは見事に温泉を堀り当てたのだ。
「一日目で温泉掘り当てるとは恐れ入ったぜぃ!さすがメロスの旦那だ、ただもんじゃねーなぁ!」
はっはっはっ!と心底楽しそうなカンバヤシは38歳の体格のいい東洋人で、何事にも寛容な愉快な男である。5年前メロスと共に屋敷を訪れてから庭師として働いている。
東洋の仕来りなのかたまに謎の行動をするカンバヤシだが、その気さくな性格のおかげで幼いジェノも比較的早く打ち解けられた。
屈強な男。
ジェノは彼をそう表す。身体も心も男の中の男!といった感じのカンバヤシに、ジェノは密かに憧れていた。
あの筋肉、いいよね。力こぶとか僕にもできないかな?
細くふにふにした自分の二の腕を摘みガクッと項垂れた少女は、「筋トレしよう」と小さな闘志を燃やした。
作業してる人たちをぼんやり眺めて過ごし、気付けば一時間以上経過していた。
うわ、もうこんな時間だ。そういえば夕飯途中だったな。
時刻は午後7時半。
遠く離れた所で使用人達が宴会して盛り上がっている姿が見える。立ち上がり足元を見ると大量のお菓子が置かれていた。使用人の誰かがジェノのために持ってきたのだろう。
戻ろうかなぁ。
お菓子を拾っいながら屋敷の方角に目をやると、一瞬白いものが視界の端に映った。
ジェノは気にせず全てを拾い終え歩き出そうとしたが、違和感を覚え足を止める。
なんだあの白いの・・・近づいてくる?
日が暮れてよく見えないが、白いものがこちらに向かってくるように見えた。
デカいな、馬か?
予想は的中し、白く美しい馬が悠々と歩を進めて近付いてくる。
白馬。
そして背にまたがる黒いフードを被った人物。
普段目にする事のない存在が突如現れ、周囲がザワつく。何故白馬がモーズリスト家の庭にいるのか。
皆が一斉にメロスを見たが、メロスは知らないと笑みを浮かべて首を振る。当主がいつもの気まぐれで買ったのかと思った使用人達はますます混乱し、奇妙な侵入者をどう対処しようか相談し始めた。
「超白いっすよ、馬っすよ馬!」
「見りゃわかるっつーの!うるせぇな」
「さっさと誰か捕まえてきて下さい。どうみても曲者でしょう。私は見てますから」
「嫌っすよ!超デカイっすもん、踏まれたらあの世行きっす」
「それは好都合。早く突撃して下さい」
「どういう意味っすか!?俺まだ死にたくないっす!」
誰が対応するかで口論し、終いにはジャンケンで決めだした使用人は完全に全員酔っ払っているようで使い物にならない。
「馬刺しにしよう」という物騒な発言も聞こえ、ジェノは馬よりも彼らの動きに注目して見守った。
「てか、あれって絶対あの子だよな・・・?」
一人だけ落ち着いている少女はつい昨日目にした美しい白馬を思い出し、静かに頷いた。
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