第10話  天使みたいな美少年

「友達が増えるのはいいことでは?」


 スープを飲みながらジェノは「でもぉ・・・」と口ごもる。


「どうせその少年と関わったら厄介な事になる、とかお思いなのでしょう」


 図星を刺され言葉に詰まるジェノに、お見通しですよとマリーテアが微笑んだ。


「貴族を毛嫌いなさらず、そちらの世界にも踏み込んでみては如何ですか。意外に苦手意識が払拭されるかもしれませんわよ?」


「うーん、でも」


「そんなにその美少年とは親しくなれそうになかったのですか?天使みたいな美少年・・・私も見てみたかったですわ!」


「また来るって言ってたから見れるんじゃない?」


「まあ! では美味しいお菓子と紅茶を用意しなくてはいけませんね! 美少年は何がお好きかしらね。はぁ、何て良い響きなのかしら・・・美少年!」


 急にテンションが上がるマリーテア。

 そんなに『美少年』が好きだったのか、知らなかった。普段の淡々とした姿が嘘のようだな。人って色々な面を持ってるよね、意外な一面を知るのは面白い。


 ジェノは頬杖を付きながらデザートを口に運び、出会ったばかりの少年の姿をぼんやりと思い浮かべる。


 親しくって言ったって、あからさまに高貴な家柄の子なんだよなーあの子。それもおそらくこの国でトップクラスの・・・本当にそうなら近付きすぎるのは気が引ける。

 マリーテアの言うように、苦手意識みたいのがあるのだろう。ジェノの顔には疲れた色が浮かんでくる。


 ジェノに貴族の友達はいない。たまに遊ぶのは近くの町の学校に行っていない農家の子だ。

 この国は他の国と比べ、遥かに安い学費で学校に通うことが出来る。

 貴族となると高額な金額を出し整った施設の学園に入学するが、普通の学校なら農家の家の子もギリギリ通える金額だ。


 だがジェノは学校へ行っていない。学校へ通う事はこの国では義務ではないからだ。

 農家の子はそのまま家を継ぐので、学校へ行くよりも家の手伝いをする者が多い。


 行きたくなければ行かなくていい・・・6歳になったジェノに、ある日メロスが聞いた。


 『学校行く? ジェノが選んでいいよ』

 当時、人間不信になっていたジェノを大勢の他人の中に放り出すのは危険だと判断したメロスは、ジェノの気持ちを尊重した。


 6歳の自分は、知らない大人が近付く度に頭を抱え震え出したのだという。

 母親からの暴力が原因だろうと精神科医は診断した。不思議とメロスにだけは最初から懐いたそうだが、加減を知らない乱暴な子に殴られでもしたら、精神的に危ないかもしれない。


 メロスの傍から離れたがらなかったジェノは「行かない」と選択した。


 勉強はメロスとメイド長がみてくれるので問題はないし、むしろ学校に行ってる他の子より進んでるらしい。

 人見知りは10歳に成長した今ほとんど無くなり、途中からでも学校へ行こうかなぁと考え始めているくらいだ。

 13歳になる歳で中等部に切り替わる為、区切りのいい時期まで待った方がいいのだろうか?


 思案しながら肉料理を口に運んでいると後ろの扉が音を立てて開かれ、メロスが勢いよく飛び込んできた。


「大変だよっ、超やばいんだよー!」


 こっちは食事中なんだ、もう少し静かに入ってこいよ。

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