第8話  友達にしてやってもいいぞ!

あれ、玄関の花替えたのかな?菫もきれいだけど紫陽花もいいよね。


 見てると心が洗われるようだわぁ。

「ほんとに男の子みたいですよね」ってマリーテアによく言われるけど僕にもちゃんと女の子っぽいところあったんだね、うふふ。


 ドンドンッ!


 あ、中指の爪だけちょっと長いかな?まぁそんなに問題ないけど、近所の悪ガキ共とごくたまーに野球したりするから危ないかもな。

 でもこの爪だけ切りに行くのもなー、攻撃する時使えるかもだし・・・まっ、いっか。


 ドンドンッ!!


 明後日届く「キツネザル」の名前どうしようかな。雄か雌かでもかわってくるし、覚えやすい方がいいよね?


 ドン・・・キンコーン


 渋いのもカッコいいよね!


 ドドドンッ


 皆から募集するのも手――



 ドン、ドンドンドンッ!!!キンコーンキンコー



「うっせぇ―――んだよっ!!」


 バァ――ンッ!

 勢いよく扉を開けた。

 ヒィッ! と奇妙な声を上げた相手を射殺さんばかりに睨む。


「拒否ってんだよ、無視してんだよ! 気付いて空気読めよ!!」


「うへぇ!? え・・・っ!! く、空気? なに、え・・・え!」


 突然出てきたジェノに怒鳴られて目を白黒させる美少年を眺め、荒立った心を落ち着ける様にジェノは深呼吸をした。

 現実逃避が失敗してイラ立ってしまったが、可哀想なくらいおろおろして戸惑っている少年を見てこれ以上はやめておく。

 なんかイジメみたいになりそうだし。


 ジェノは言葉使いが悪く少し乱暴に見られがちだが、争いごとを極力避ける性質だ。

 これも母親の影響だが、「こわい」というよりは「嫌悪」である。


「朝から迷惑行為はやめてくれないか、まだ寝てる人もいるし。もう少し常識を学んでくれ、それと空気の読み方もな。そんなんじゃこの先苦労するぞ・・・周りが」


 固まったまま動かない少年を見遣り、すこし口の端を上げながら再度話しかけてみる。


「怒鳴ったのは悪かったよ。すこし眠くてイラついただけだ、あまり気にしないでくれ」


「あっいや、あの私もその、早朝から申し訳なかった。早く報告に来たくて、その・・・非常識だった。すまない」


 ああ、ちゃんと自分の非を認めて謝罪出来るならまだ大分ましだな。

 これで逆切れする奴とかもう終わってるし、絶対関わりたくない。


「で、うちに何か用?」


「あ、ああ私の」


「君の?」


「私の・・・友達にしてやってもいいぞ!」


 腰に手をやりふんぞり返りながら言い放たれたセリフにやはり扉を閉めたくなる。

 だから何で一々上から目線なんだよ。そして何故昨日の遣り取りで「従者」から「友達に」レベルUPしたんだ?


「君は僕と友達になりたいの?」


「え? ・・・いや、わ、私は全然! お前がどうしてもと言うなら特別に――」


「全く、なりたくない」


 ピシッという音が聞こえるかのように固まった少年に、ジェノは満面の笑顔でゆっくりと言い聞かせるように告げる。


「僕は君と友達になりたいとは思わない。君も全然思ってないみたいだし、この話は無かったということで。・・・用がそれだけなら帰って?」

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