第6話 『モーズリスト家』は没落貴族
屋敷に帰ってすぐ父親を捕まえたジェノは、海が綺麗な島に来月連れて行ってと不貞腐れながらねだった。前から反対されて飼えないでいた『キツネザル』と屋敷の雨漏りの修理も約束してもらい、少し機嫌を直して夕飯にありつく。
「ほんとごめんなー」
そう言ってへらへら笑っているメロスは色々な意味で心配だ。
もう少し僕がしっかりした方がいいんじゃないだろうか・・・でも面倒臭いし、まっいっか。なるようになるだろ!
――ジェノ本人は全く気付いていなかった。
「メロスとジェノはそっくりな性格だ」
そう使用人や近しい間柄の者達が口を揃えて言っている事を。
その夜布団に入りそういえば結局あいつ誰だったんだ? と思考を巡らせたが、「まぁいっか」といつものように軽く流して深い眠りへと落ちていった。
その答えは後日、意外な形で知る事となる――
大陸の西側に位置するヴェジニア国は、近隣の諸国と比べはるかに大きく秀でた国である。ほどよく残った豊かな緑に様々な鮮魚が捕れる海。作物が育ちやすい気候が年間を通して長く続くのも、民の暮らしを楽にしている要因だ。
だが一番民を助けたのはヴェジニア国の王の采配、あり方である。
なにも特別なことをしたわけではない。他の国の様に民を虐げなかった・・・それだけである。しかしそれだけのことで国というのは大きく違ってくるものだ。
百年程前に戦争が終わりを迎え『さあ、これから国を建てなおす!』という状況になった際、すべての苦難を民に押し付け働かせ自分たちだけ裕福な暮らしを続けた王家や貴族。
しっかり王家が責任を持ち、無理をさせない程度に民からの協力を得て体制を立て直した国。
この二つの国は始めの方こそ前者が有利に事を運んでいったが、徐々に・・・しかし確実にその差はひっくり返り、今や比べるまでもないほどにひらいてしまっている。
餓え、貧困、反乱。
得た作物や利益を根こそぎ持っていき、何もしてくれない王政に民は弱り果て生きていくこともままならなくなった。
戦争は終わったはずなのに争いの絶えない周辺諸国は、徐々に国としての力を減退させていき、ヴェジニア国だけが発展する形となったのだ。発展はしたものの元々ゆったりとした国民性を持つのこの国は、強引にことは進めず着実に大国を盤石なものにしていった。
そんなヴェジニア国の貴族『モーズリスト家』は没落貴族であるが、他の国の貴族からしたらとても裕福な暮らしをしているためどこが没落なんだと言われてしまう。
どこって・・・屋敷がボロいから? 前に来たお髭が立派なお客様には、「素晴らしいアンティークだ!」と言われたがジェノにはよくわからなかった。
前当主、バンズ・モーズリストは貿易関連の仕事を生業としていたが、彼が亡くなった現在は貿易には一切手を出していない。
そして現当主であるメロス・モーズリストの仕事といえば―― 不明である。
メロスが何で生計を立てているのか、実際のところ娘のジェノは何も知らずに育ってきた。
「いってくるー」と不定期に三日ほど家を空け、ふら~っと帰ってくる父親。一週間程家を空ける事もあるが、その場合は事前に言ってあるか手紙が届くので心配ない。
が、どこから出したのかが全くわからない手紙・・・以前血のようなものが付いていたこともある。
一体どんな仕事をしているんだ!?
どんなに問いただしても、のらりくらりとへらへらした笑みでかわされ、もうジェノは半分諦めた。しかし一度だけ、「知恵を貸す仕事」と言われたことがある。
知恵を貸す・・・なんだろう、探偵とかかな?
職業にかかわらずメロスという男は謎多き人物だと噂が絶えない。
もはや分かってる事柄の方が少ないのではないかと、使用人が話していた事がある。
歳はジェノと出会った当初が22歳。5年たった今は27歳だ。
モーズリスト家を飛び出し、行方不明となったのが若干15歳の時だったという。
理由を聞いたところ「世界を見てみたかった。己のちっぽけさを知ることは今後の成長に繋がるぞ」と楽しそうに語ってくれた。一人でよく生きていけたなと感心してしまう。
少し長めのウェーブした赤毛の髪に、歳よりも若く見られる整った顔立ちのメロス・モーズリスト。
そんな彼は使用人の話だと常に何かを企んでいる様な笑顔を貼り付け、無駄に周囲を警戒させているという。
うーん、僕にはただへらへらしている様にしか見えないんだけどなぁ。何にも考えないで生きてるんだよ絶対!
生粋の自由人。
メロスをよく知る人物は皆、口を揃えてこう言った。
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