第5話 面倒臭いわ
「だから何?」
「何って・・・私の話はまだ終わってない! 勝手な行動はー」
「そうなの? じゃあ聞いてもいいけど、腕放して。歩きながらでも話せるでしょ」
「え、ああ・・・すまない。その、えっと・・・」
ジェノに怒ったように言われ、途端におろおろしだす少年。そこに始めの堂々とした姿はない。
なんか叱られた犬みたいだなこいつ。
「さっきの話、内容なんだったの? 長くてよくわかんなかったからもっと簡潔に言ってよ」
「え・・・ああ、だから私の傍で付き従う権利を特別に許してやる、と」
「なんで?」
「それは、私がお前を気に入ったからでー」
「いや、だから何で僕が付き従わないといけないの? 君の従者でもないのに」
「それは・・・私の傍にいられるのは嬉しいだろう? 名誉なことだし」
「いや全然」
え? と、心底驚き不思議そうな顔をした少年を見て、「やっぱり」と確信する。この子の考え方や価値観は、自分とは全く違うのだ。
ジェノとは全く違う感性を持った人間。
・・・面倒臭いなぁ。
「面倒臭いわ」
「め、めんど!?」
本音が口に出てしまったが構わず続けた。
「あのさ、君がどれほど立派な家のご子息かは知らないけど、僕は権力とか心底どうでもいいんだよね。家柄とか関係なく一緒にいて楽しいと思える人と仲良くするし、友達になるよ。君が求める人材は、望んでる人の中から選ぶといいんじゃない? 貴族の多くは君と同じ価値観持ってるだろうし」
足を止め真面目な顔して話すと、少年も真剣な顔で黙って聞いていた。思ったより話の通じる奴なのかもしれないが、なるべく関わり合いになりたくない。
「・・・ともだち?」
「ん? ああ友達じゃなく従者とか下僕の話だっけ? 僕だったら・・・同年代の子がずっと傍にいる状態になったら友達になると思うけど。まあ、よっぽど性格が合わないとかない限りね」
それきり少年は黙りこくってしまった。ぐるぐると何か必死に考えているみたいだが、いい加減帰ってもいいだろうか?
呼び止められたせいでせっかく買ったメロンアイスがカップの中で溶けてしまっている。
僕としたことがなんたる失態! まぁ溶けたアイスも普通に好きだったりするからいいけどさ。
俯いている少年に断りを入れた後、歩きだしても付いてこないのを確認し安堵の溜息をついた。
これでやっと家路に着けるな。
「――送って行こう! 乗れ」
「いいっ、知らないやつの馬車に乗るなって親に言われてるから!」
ふいに後ろから強めに掛けられた声にはっきりと言い返す。最後に見た少年の顔は唖然としたものだった。
呆けててもすごく可愛く見えるって美少年は得でいいよね。僕は目が鋭すぎてあんま可愛いとは言われない顔立ちだし。
いや、メロスにはよく頬ずりされながらうざいくらい「可愛い」って言われるんだけどね。あれは親の欲目だからノーカウントだな。
あまり頼りにならない父親を思い出し、自然と少女に笑みが浮かぶ。早く家に帰ってメロスに今日あったことを報告しよう、そしていっぱいお話するのだ!
なんだかんだ文句を言いつつも、ジェノは実際のところ父親が大好きだった。
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