第4話 そこら辺の沼とかにいるだろ
輝く金髪を風に靡かせる美少年の言葉を聞きながら、ジェノは欠伸を噛みしめる。周りの景色は左側が竹林、右側が田んぼや畑で広めの砂利道には先程から一人も通らない。
この子誰だろう。
見るからに高級そうな服に身を包み、堂々とした立ち姿・・・この歳でこの風格はなかなか出せるものではない。瞬時に自分が軽く会話できる家柄の子供ではないと察する。だが――
「私の目に留まるとは、お前はなんて幸運なんだ。まあ、頑張って役に立つといい!・・・いい働きをすれば、ちゃんと私の中でお前の評価を上げてやる」
何を言ってるんだこの金ピカボーイは。
ジェノは面倒臭そうな表情を隠しもせず、目の前の少年に冷めた視線を送った。
少し顎を上げて話す姿は誰がどう見ても偉そうである。
まあ、実際偉いんだろうけど・・・親が。
「レミアーヌとの縁談を蹴るとは、よく互いの家の立場を理解しているな。釣合のとれる家系同士でなければいずれ互いに不利益を被ることは目に見えている。その点、自分の立場をよく理解し、身を引いたその判断は称賛に値する!あのレミアーヌの情けない顔も拝めたしな!」
いちいち胡散臭い動きをしながら語る少年を眺め、あぁレミアーヌちゃんの知り合いなんだな、とぼんやり考える。
欠伸を噛み締め一応聞く体制をとるものの、厄介な雰囲気に無意識に足は後退していった。
「確かにお前はみれる顔をしているな。家柄は・・・まあ目を瞑るとして、傍に置いても許せる範囲だ!よかったな、ジェノ・モーズリスト!」
よかったのか? なにがどうよかったのか、さっぱりわからん。
無言のジェノに対し止まる事なく喋り続ける少年のよく回る舌に感心しつつ、失礼な子供だなと腕を組む。
基本高貴な家柄の人って、自分より身分の低い者の話を聞かない人が多いよね。一人で喋るなら人形とか動物とかと話してればいいのに、本当にいい迷惑だ。
上に取り入ろうとする人物にはこういうタイプの方がいいのかもしれないが、ジェノもモーズリスト家の者も全くそういう事には興味がない。
母親はお金や地位に対し強い執着をみせたが、娘のジェノは幼い頃見た母の狂った様な姿がトラウマとなり、そういったもの全般に強い拒否反応が出るようになってしまった。聞いてもないのに自分がいかに凄いか、周りとは違うかと語っている少年の姿に少女は鼻白む。
黙って話を聞いていたけど、こいつに付き合ってここにいる理由はない。
「おい」
「呼ばれた時だけ私の傍にーっ! ・・・なんだ?」
「帰っていいか?ドジョウに餌やる時間なんだ」
は?と口を開け、眉間に皺を寄せた少年にジェノは臆さず言葉を発した。
「なんかよくわかんねーし、他に言いたいこと無ければ帰るわ。ドジョウが待ってるんでね」
「・・・どじょう?」
「おう、ドジョウ」
「どじょう・・・」
「なんだドジョウ知らないのか?そこら辺の沼とかにいるだろ、見たことないのか?もしかして」
まじかよ! と眉を顰めたジェノに、同じく眉を顰めた少年が自分のおでこに手を当てる。
「いや、ドジョウは見たことあるし知っている。だがー・・・なぜ今、ドジョウが出てきたのかがわからないのだ」
「だからドジョウに餌やりたいから帰っていいかって話だろ?」
「だから何故ドジョウに餌をやりに帰るのだ!? 今私といるこの時に!」
「餌やりたいから帰るんだよ!! 何故もへったくれもあるか!」
「へっ、へったくれ!? それはっ・・・な、何だ? どういう」
「あ? へったくれが何か? 何って・・・そーいやなんだろな? へったくれって」
「「・・・・・・・・・」」
二人の間に沈黙が流れ、ジェノは自分の頬をポリポリと掻く。へったくれの意味を考えてみたがよくわからない。
後でメロスに聞いてみよう。
「まーいいじゃん何でも。へったくれはへったくれだ! 細かいことは気にすんな!」
美少年の肩をバシバシ叩きながらニカッと笑うと、驚きに目を見開き固まってしまった。
これでもかと開いた瞳は宝石みたいに美しく、ジェノは一瞬だけ見蕩れてしまう。
「あぁー、んじゃそうゆーことで僕は帰るから。ばいばい」
「待てっ」
呆気にとられていた少年は三秒程反応が遅れたが、すぐに駆け寄りジェノの腕を掴んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます