第3話  お前は運がいいな

そして五年後の現在。


「なんで断らなかったんだ!?」


「いやぁ、勢いにおされちゃってさー」


「ばれたら大変なことになるってわかるだろう!」


「いやぁ、ぶっちゃけ女の子だってこと忘れてたんだよね――あはは」


「・・・は?」


「いやぁ、うっかりうっかりー」


「・・・・・・」


「あれ、ジェノ?」


「・・・・・・」


「ちょっごめん、ごめんてジェノ! そんな恐い顔しないでっ、許してお願いこの通りです!」


 

 やはり昨日の会話は頭が痛くなる。

 まぁ帰ったらメロスに3つお願いを叶えてもらう約束したし、何がいいか今の内に決めておこうかな。


 お見合いからの帰り道。アイスを片手にのんびりと歩き、少女は欲しいものを考える。

 お見合いはというと、言いたいことは我慢せず口に出すタイプのジェノは潔く頭を下げ、キッパリと断りの返事をした。

 理由はいろいろ思いついたのを並べ立て、少女が目をパチパチさせて驚いている間に、


「でも今日は楽しかったです。レミアーヌちゃんにはもっと素敵で高貴な殿方が相応しいと思うから、陰ながら応援してます!では、僕はこれで」


 そう言い放ってだだっ広い会場を足早に後にした。

 今になって反芻してみると、「あれ?もしかして結構ひどいこと言った?」と思わないでもないが・・・まっ、いっか。

 後ろから響く蹄の音に振り返ると、大型の馬車が通って来た細道を通り、こちらに向かってくる姿が見える。


 おっ、豪華な馬車だなぁ。

 うちは迎えの馬車を寄越さないどころか護衛の一人も付けやしない。いくら使用人が少ないからって、僕は一応跡取りの立場だよな? うちはホントに貴族なのだろうか。最近本気で心配になる事がある。


 勢いよく横を駆け抜けた大型馬車は10m程過ぎたところで突如急ブレーキをかけ、ジェノの前で派手に停車した。街でさえ滅多にお目に掛る事の出来ない、貴族特有の豪華馬車だ。一目で位の高い家柄のものだとわかる。


 うっわぁ白馬だ! しかも二頭っ、かっこいー!


 御者が颯爽と現れ扉に手を掛け、青と金を主な配色とした煌びやかな馬車からブロンドヘアーの美少年が軽やかに降り立った。


 なんか王子様みたいの出てきた!

 白馬に乗った王子、いや馬車に乗った王子様か。すっげーな、めっちゃキラキラしてるぞ。短時間に完璧な顔二人も見るなんて目が腐りそう・・・いや潰れそうだ。


 一瞬レミアーヌちゃんが追いかけてきたのかと思ったけど、こいつは一体誰だ?こっちに来るから僕に用があるんだよな?

 同い年位の少年を呆然と眺め、ジェノは首を傾げた。

 うーん、こんな目に痛そうな煌びやかな知り合いは存在しない。


 輝きを放つ見事な金髪に黄緑色の瞳を持つ美少年は、目の前に立つとよく通る美声で声高々に言い放った。


「そこのお前、レミアーヌを振るとは気に入った! 特別に私に付き従うことを許してやってもいいぞ! お前は運がいいな。嬉しいだろう、喜べ!」



 ・・・うれしくねぇ――よ!!

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